2020年04月16日

高リスクケースでは65歳以上の被保護人員が200万人を突破

 今後、貧困高齢者はどう推移するのか。正確な予測は難しいため、一定の前提を置き、簡易推計を行ってみよう。まず1つは「高リスクケース」である。65歳以上高齢者の「保護率」(65歳以上人口のうち生活保護の受給者が占める割合)は、1996年の1.5%から2015年で2.9%に上昇しており、その上昇トレンドが今後も継続するというケースである。もう1つのケースは「低リスクケース」で、65歳以上高齢者の「保護率」が2015年の値と変わらずに一定で推移するというケースである。
 以上の前提の下で、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(2017年推計、出生中位・死亡中位)を利用し、65歳以上の被保護人員(生活保護を受給する高齢者)を予測した。
 低リスクケースでは、65歳以上の被保護人員は、2015年の約97万人から2050年に約110万人に微増するだけだが、高リスクケースでは2048年に2倍超の200万人を突破し、2065年には215万人にも急増する。2065年の65歳以上人口は約3380万人であるから、215万人は6.4%で、100人の高齢者のうち6人が生活保護を受けている状況を意味する。
 では、生活保護費の総額はどう推移するか。2017年度における生活保護費の総額は約3.8兆円で、約214万人が生活保護を受給している。1人当たり平均の生活保護受給額(名目)が一定で変わらないという前提の下、「高リスクケース」と「低リスクケース」で生活保護費の総額を簡易推計した。
 低リスクケースでは2025年頃までは概ね4兆円弱であるものの、それ以降では緩やかに減少し、2065年には2.9兆円になる。だが、高リスクケースでは、2029年に5兆円を突破し、2067年には6.7兆円にまで増加する。
 貧困高齢者の問題がこれから深刻さを増すのは明らかだが、現行の社会保障で本当に対応することができるのか。社会保障財政の持続可能性を高めるためには安定財源が必要であることはいうまでもないが、すでにさまざまな「綻び」が顕在化しつつあるなか、生活保護のあり方を含め、「社会保障の新たな哲学」についても検討を深める必要がある。
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2020年04月15日

増加する高齢者の生活保護の将来

 少子高齢化や人口減少が急速に進むなか、社会保障費の増加や恒常化する財政赤字で日本財政は厳しい。税や保険料等で賄う社会保障給付費(医療・介護・年金等)は現在概ね120兆円だが、内閣府等の推計(2040年を見据えた社会保障の将来見通し)によると、2018年度に対GDP比で21.5%であった社会保障給付費(年金・医療・介護等)は、医療費・介護費を中心に2040年度には約24%に増加する。
 現在のGDP(約550兆円)の感覚でいうと、この2.5%ポイントの増加は約14兆円(消費税換算で6%弱)に相当する。また、財務省「我が国の財政に関する長期推計(改訂版)」(2018年4月6日)では、2020年度に約9%の医療・介護費(対GDP比)は、2060年度に約14%に上昇する。すなわち、40年間で医療費等は約5%ポイント上昇し、この増加は現在のGDPの感覚で約28兆円(消費税換算で約11%)にも相当する。
 だが、財政は表面的な問題であり、問題の本質は別にある。そのうちもっとも大きな問題の1つは、貧困高齢者の急増である。たとえば、2015年で65歳以上の高齢者は約3380万人いたが、そのうち2.9%の約97万人が生活保護の受給者であった。すなわち、100人の高齢者のうち3人が生活保護を受ける貧困高齢者だ。
 1996年では、約1900万人の高齢者のうち、1.5%の約29万人しか生活保護を受給していなかったので、貧困高齢者は毎年3.5万人の勢いで増え、20年間で約70万人も増加したことを意味する。
 高齢者の貧困化が進んでいる背景には、低年金・無年金が関係していることは明らかだが、50歳代の約5割が年金未納であり、今後も増加する可能性が高い。
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2020年04月14日

安倍晋三政権の“高齢者いじめ”が加速している!

 検討が進められている年金制度改正では、働き方改革と相まって、一見、高齢者の労働を促すことにより、その生活が改善されるように見えるが、実態面では“改悪”が進められている。加えて、高齢者の医療費自己負担額の引き上げも検討されるなど、今後、高齢者の生活は一段と悪化する可能性が高まっている。
 『「年金月4万円」生活保護費「受給者増加」高齢大国ニッポンの「暗い将来」』は、読者から大変大きな反響があった。この中で、現行の年金受給額では、特に国民年金受給者の場合「生活が維持できない高齢者」が多数存在し、高齢者世帯の生活保護受給が増加の一途を辿っていること、政府が検討している年金制度改正は高齢者の労働意欲を高め、生活改善に資するものではないことなどを指摘した。
 現在、政府は「全世代型社会保障」に向けた年金制度改正の検討を行っているが、残念ながらこの改正は、決して高齢者の生活改善につながるようなものではない。
 年金制度改正の柱は3つ。
 柱の第1は、公的年金の受給開始年齢を75歳まで選択できるようにすることだ。
 現在の公的年金制度は、受給開始年齢が原則65歳で、60〜70歳の範囲で選択できる。受給開始を1ヵ月早めるごとに65歳から受給を開始した場合の年金額(基準額)から0.5%減額され、遅らせるごとに0.7%増加する仕組みとなっている。もし60歳から受給を開始すると、基準額から30%の減額、70歳から開始すると42%の増額となり、この金額は生涯続く。
 60歳から受給を開始すると、年金の受給総額は65歳から受給を開始する場合に比べ、75歳までは多いが、75歳を超えると65歳から開始したほうが多くなる。また、70歳から受給を開始すると、65歳から開始した場合の年金総額に追いつくのは82歳前後となる。どんどんと不利な状況に追い込まれることになるのだ。
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2020年04月13日

頑張る低所得層を助ける仕組みもやはり生活保護基準の引き上げから!

 第3の問いは、「世間、特に『頑張っているのに生活保護より苦しい』と感じる低所得層の視線をもう少し温かくするために、生活保護を受給していない低所得層をもっと支援する必要があるのではないか」というものだ。
 確かに、その通りだ。しかし、この問題に対する解決策も、まずは「生活保護基準を引き上げる」ということになる。生活保護基準を引き上げれば、連動して最低賃金が引き上げられるからだ。
 さらに、低所得層に対する社会保険料や医療費の自己負担を減らす必要がある。税の減免対象であるはずの低所得層から、実質的に税である社会保険料を徴収するから、「働いて納税しているのに、生活保護より苦しい生活」という倒錯が生まれてしまうのだ。
 社会保険料や医療費の自己負担を減額・免除する制度は、一応は全国的に存在する。しかし、必要とする人々が誰でも使えるようにわかりやすく説明している自治体や、申請を容易にしている自治体は、現在のところは「日本の普通」ではない。
 2019年は、生活保護に関して明るいニュースがほとんどないまま終わってしまった。日本の残念すぎる実情を変えていかなくては、課題問題が濃縮されがちな生活保護の世界は明るくなりようがないだろう。
 それでも、「自分が少しだけラクになりたい」という思いを、「ついでに生活保護の人々も」と広げていくことはできるだろう。そして、厚労省が非公開で続けている生活保護と就労支援の研究会に関心を向けることだ。もしかすると、それは自分を救う近道になるかもしれないからだ。
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2020年04月12日

単身者で最大3万円程度の労働収入 生活保護から抜け出す気になるか?

 ここで、3つの問いに答えよう。
 1番目の問いは「働いても収入が増えない「収入認定」の仕組みが、生活保護からの脱却を妨げているのではないか」というものだ。
 生活保護はあくまでも「健康で文化的」な最低限度を保障する制度なので、生活保護の下では、「最低限度」以上の生活はできない。このため、生活保護費以外の収入がある場合には、「収入認定」され、同額が生活保護費から差し引かれる。
 働いて得た賃金の場合は、「働き損」にならないように、まず働くことに対する必要経費がカバーされる。さらに、本人の可処分所得が若干は増える。とはいえ、単身者の場合の最大で、増加分は3万円程度だ。それでも、「モチベーション下がりまくり」と嘆息しながら正直に収入を申告しなければ、不正受給となる。ちなみに、不正受給のうち最多のパターンは、就労申告を隠したり少なく申告したりするものだ。
 2番目の問いは、「生活保護から脱却すると、社会保険料や医療費の自費負担によって、かえって生活が苦しくなる。この問題を解決する必要があるのではないか」というものだった。
 この問題への回答は、2013年に「就労自立給付金」として制度化されている。生活保護の下で就労している場合、就労収入の多くは前述のとおり「収入認定」されるのだが、その分を仮想的に積み立てておき、保護脱却時に一時金として給付するというものだ。
 ところが、そもそも対象者がいない。背景は、「そもそも、働いて生活保護を脱却できそうな人がいない」ということだけではない。この制度が前提としているのは、安定した収入が得られる状況が継続、言い換えれば一定の金額を「収入認定」できる期間が継続するということなのだが、その前提は成り立たないことが多いのだ。
 たとえば、「生活保護で暮らし始めて、すぐ就職に成功して脱却した」という場合、積立期間がないため給付金の対象にならない。それでも2016年、約1万人が生活保護から脱却して「就労自立給付金」を受け取ったが、厚労省によれば、その1万人は就労によって生活保護から脱却した人々の40%に過ぎなかった。
 生活保護基準を引き上げれば、就労した場合に手元に残せる金額も増える。収入申告した場合に手元に残る金額を同時に引き上げれば、「働いたら生活が豊かになった」という手応えが大きくなるだろう。すると、預貯金が容易になる。効果が疑わしい給付金よりも、より効果的に就労意欲を高められるのではないだろうか。
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2020年04月11日

「働けるはず」と言える人が実はほとんどいない生活保護の世界

「単身者かどうか」に注目しよう。単身の人々と、育児や介護を担っている人々では、同じ「男性でやや不健康な55歳」であっても、就労を開始したり転職したりするにあたっての制約が全く異なるはずだ。
 2016年、生活保護世帯は約160万世帯であった。単身世帯は約127万世帯で、約80%を占めていた。高齢化と単身化が同時に進行しているのは、日本全体に見られる傾向だが、特に生活保護世帯が時代を「先取り」していると言えるかもしれない。
 127万人の単身者たちのうち、20〜64歳は約51万人、20代と30代に限定すると約6万人だった。20代・30代の単身者は、生活保護で暮らす210万人の約3%に過ぎなかったことになる。
 就労には、多様な意義がある。自分の生み出した仕事の価値が認められて報酬を得ることは、社会とつながる重要な回路の1つだ。就労により生活保護から脱却することの価値は、「保護費を減らし、国と地方の財政に貢献する」ということにとどまらない。しかし、年齢別に見ていくと、生活保護で暮らす若い人々が就労によって生活保護を必要としなくなったとしても、保護費の削減はあまり期待できなさそうだ。
 その上に、障害・病気・負傷が重なっているかもしれない。本人の状態を考慮すると、生活保護で暮らす人々の3%にあたる20代・30代の単身者6万人のうち、実際に「働ける」状態にある人々はいったい何人いるのだろうか。
 生活保護で暮らす人々の中に含まれている「働ける」人々は、もともと非常に少ない。したがって、就労指導を強化しても生活保護を必要とする人々は減らず、保護費削減にもつながらない。これが実態だ。
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2020年04月10日

生活保護受給者で「働ける人」は実際にどれくらいいるのか?

 公開されている統計データから中央値を推測すると、60〜64歳の範囲にある。62歳なら「働ける」残り時間は3年だ。
 2016年は約211万人が生活保護で暮らしていたが、「働ける」とされる20〜64歳の人々は約85万人だった。このうち約46万人は50〜64歳だった。「働けるはずなのに」と叱咤激励しても、あまり意味がなさそうだ。
「努力すれば、就職はそれほど難しくないはずだ」と言えるのは、20代・30代であろう。同年、生活保護で暮らしていた人々の中に含まれていた20代は約6万人、30代は約11万人であった。合わせて17万人。20代・30代で「若いから働けるはずだ」と考えられる人々は、生活保護で暮らす人々の8%に過ぎなかったことになる。
 さらに年代別に見てみると、40代が23万人、50代が34万人である。この世代に関しては、「失われた20年」「ロスジェネ」「バブル崩壊」「リーマンショック」といった時代の波を考えざるを得ない。
 そこに、一度失敗すると再起が困難な日本の就労状況の影響も重なる。60代は、60〜64歳だけで20万人だ。50代で失職して生活保護を必要とする状況になったら、就労努力を重ねても安定した雇用は得られず、アルバイト収入を得て保護費を少なく受け取るのが精一杯のまま60代を迎え、やがて65歳の高齢者となるのは、自然の成り行きかもしれない。
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2020年04月09日

「生活保護を受けるとやる気がなくなる」は本当かを検証する3つのポイント

 「生活保護は、やる気を失わせる制度」という見方は、非常に根強い。笑顔とエネルギーに満ち溢れた楽しそうな人が生活保護で暮らしていることは、事実として少ない。何が原因なのかはともかく、生活保護で暮らしていることと、体力や気力や尊厳が失われがちであることは、強く結びつきがちだ。
 今回は、この問題の解決策の1つとして挙げられることの多い、次の3点のアイデアを考えてみたい。
(1)働いても収入が増えない「収入認定」の仕組みが、生活保護からの脱却を妨げているのではないか。
(2)生活保護から脱却すると、社会保険料や医療費の自費負担によって、かえって生活が苦しくなる。この問題を解決する必要があるのではないか。
(3)世間、特に「頑張っているのに生活保護より苦しい」と感じる低所得層の視線をもう少し温かくするために、生活保護を受給していない低所得層を、もっと支援する必要があるのではないか。
 現在、厚労省は「生活保護受給者に対する就労支援のあり方に関する研究会」を開催しているが、非公開なので内容は不明だ。例えば昨年10月19日に開催された第4回会合ではパソナからのヒアリングが行われたが、資料は公開されていない。しかし、公開されている議事要旨からは、本人の就労意欲を重視していることが読み取れる。いずれにしても、生活保護と就労については、「都市伝説」が多すぎる。
 最初に、大切なことを1つ確認しておく必要がある。働いて生活保護から脱却できる可能性がある人、言い換えれば単身者で年収200万円程度の収入を得られそうな人は、何人いるのだろうか。
 細かく集計された年次・年度次の最新データが揃っているのは、2016年の生活保護統計だ。とはいえ、生活保護統計から「自分の働きによって、生活保護以上の生活ができそうな人」の人数を見積もるのは、実はかなり困難なのだ。
 たとえば「母子世帯」には、母子世帯も父子世帯も、両親以外の大人が子どもを育てている世帯も含まれる。いずれにしても、子どもと同居している大人の健康状態や年齢は顧られない。生活保護で言う「母子世帯」であるということが意味するのは、「子どもがいて、両親の片方または両方がいない」ということだけなのだ。
 生活保護で暮らす母子世帯の世帯主は、病気や障害を抱えているかもしれない。また、子どもが障害や病気を抱えており、大人が容易に働けない状況にあるのかもしれない。公式統計では、「母子世帯」が「死別」「離別」「その他」に分類されているが、その世帯の大人が働けるかどうかを示す指標ではない。
 まず単純に、年齢に注目しよう。生活保護で「働ける」とされるのは64歳以下だ。しかし、生活保護で暮らす人々の平均年齢は56.8歳なのだ。「働ける」残り時間は、約8年ということになる。
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2020年04月08日

生活保護受給者の特徴を解析、実態浮き彫りに!

 大阪市が持つ生活保護受給者のデータを大阪市と大阪市立大学が共同分析したところ、住民登録から受給開始までの期間が6ヵ月未満と短かったケースが2015年度で男性19.8%、女性10.6%に上ることが分かった。生活困窮者が他の地域から大阪市へ流入し、生活保護を受けている実態が浮き彫りになったとみられる。
 大阪市立大学によると、大阪市へ流入して6ヵ月未満で生活保護を受給したケースは、34歳以下の男性で26.4%、45〜54歳で21.7%。これに対し、女性は15〜16%しかなく、男女で大きな差が見られた。
 世帯別で多いのは男性の単身で26.6%。単身傷病者24.1%、単身高齢者16.8%、単身障害者15.6%といずれも高率だったのに対し、一般世帯は5%を切り、女性の母子家庭も10%にとどまっている。生活困窮者の流入は男性の単身者に多いことがあらためて示されたわけで、大阪市が全国から単身男性の生活困窮者を受け入れているともいえる。
 行政区別でみると、男性の場合は最大の区で33.2%に達したのに対し、女性は最大の区で18.6%、5%に満たない区も複数存在した。
 生活保護の継続率は男性で10年間が20%前後、5年間が40%前後。この傾向は住民登録から受給開始までの期間が6ヵ月以上のケースと大きな変化がなかった。就労による生活保護からの離脱はかなり少ないが、死亡や失踪による離脱は多い。
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2020年04月07日

これでは生活保護から抜け出せない あまりにも「最低限度」が多すぎる

最低限度以下の生活から、就労へとジャンプするために必要な何かを用意することは、どのような生活保護世帯にとっても容易なことではないだろう。それでも就労へのハードルを越え、就労を開始したら、就労に関しても「最低限度」であることを求められる。
 これでは、就労による生活保護からの脱却を、わざわざ困難にしているようなものではないだろうか。もしかすると、2013年以降の生活保護制度に関する動きは、「働いても、どういう努力をしても、生活保護のままでいるしかない」という人々と、生涯にわたって生活保護と無縁な人々と、その中間で「生活保護の世界に一生押し込まれていたくなかったら、せいぜいあがけ」と言われているも同然の人々をつくるために、あったのかもしれないのではないか。
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