こうした方向に向けた改革について、再分配(社会保障)のサービス給付と現金給付、そして当初分配(雇用保障)について簡単に述べるならば、以下のようになるだろう。
第1に、保育(就学前教育)、介護、就労支援など支援型サービスが強化されなければならない。男性稼ぎ主の安定雇用に代わり、老若男女の就労と社会参加を支えるのは、こうした支援型のサービスである。人々の就労と社会参加を妨げている要因は、家族のケア、自身の心身の弱まり、経済困窮などが複雑に絡まり合っている。
したがって、こうしたサービスについては、行政が画一的な手法で提供しても効果はない。そこで支援型サービスは、準市場quasi marketの方法で供給されることになる。準市場とは、非営利や営利の多様な民間団体が参入し、基本的には公的な財源で(わずかな自己負担あるいは無償で)サービスが供給される仕組みである。
介護保険制度や措置から契約に移行した子供子育て新制度などは、準市場に近い仕組みであるが、自己負担分が過大である。さまざまなサービスの最適な組み合わせが、人々の絡み合った困難を解きほぐすのに必要なのである。
福祉国家の未来においては、母子世帯、就労支援、困窮、障害といったサービスの垣根が取り払われ、ほんとうに1つのワンストップサービスの窓口で、さまざまなサービスを組み合わせたオーダーメイドの支援計画が作成されるようになる必要がある。
第2に、所得保障については代替型から補完型への転換をすすめる必要がある。代替型の所得保障とは、生活保護の生活扶助や雇用保険の給付のように、何らかの事情で失われた所得を、その何割かの水準でまるごと代替する仕組みである。これは人々が失業や病気などで雇用を失う際に社会保障の対象となる従来の所得保障の考え方であった。
これに対して、補完型の所得保障とは、就労し続けているが就労時間が短かったり、給与水準が十分でなかったりする場合、あるいは家族の扶養などの必要がある場合に、所得を補完する仕組みのことである。補完型の保障は、より多くの人々が就労を目指す一方で、所得面での見返りが大きい安定した雇用が縮小している時代に有効な保障である。
既存の制度では児童手当などの家族手当が挙げられる。さらに、就労や子育てを条件に税額控除をおこない、低所得で控除しきれない部分を現金給付する給付付き税額控除は、これからの補完型所得保障の柱となりうる。
第3に、かつての日本型福祉国家で大きな役割を果たしていた当初分配の仕組みを、新しい形で蘇らせることである。加えて重要なのは、当初分配の基礎となる雇用のかたちそのものを転換していくことである。
長時間労働で会社の要請に応える旧来の日本の働き方は、男性稼ぎ主雇用に適合的であっても、新しい日本型福祉国家の土台としてはふさわしくない。老若男女の多様な働き方を受け入れる職場が不可欠となる。
現在、中小企業の多くが人手不足に悩んでいる。その一方で、地域では仕事に就けず排除されていく人々が増大する。この矛盾した状況を打開し、支援型のサービスや補完型の所得保障を活かしていくためには、能力面でも条件面でも、より多様な人々が力を発揮できる雇用の場が不可欠である。
現在一部の企業では、専門的職務の業務から単純な仕事を切り出し、これを就労困難な事情を抱える人々に割り当てて、職場の効率を高めつつ包摂力を高めようとする試みがなされている。無限定の献身を前提とした男性稼ぎ主雇用から包摂型のダイバーシティ・マネジメントへの転換は、日本型福祉国家の復活の条件でもある。