ハッカーが当初分配を問題にするのは、かつてのイギリス労働党の「第三の道」論などへの反省に基づく。「第三の道」は、業界保護などの当初分配はグローバルな市場経済においては維持できないという点で新自由主義に接近しつつ、他方で再分配を単なる弱者保護から就労支援を軸とした社会的包摂型のものに転換していこうとした。だがハッカーによれば、当初分配を放棄すれば格差は際限なく拡がり、再分配でカバーしようとしても難しいのである。これは、今日の日本の状況と重なる。
問題は当初分配そのものというより、当初分配の在り方とその再分配との関係である。日本型福祉国家が雇用保障を重視してきたのは間違いではなかったが、ここには決定的な問題点があったのだ。