2019年11月13日

日本人の貧困化―その背景と政治的意味を考える―

 最近の日本社会の生活実態を表す言葉に、「子供の貧困」と「下流老人」がある。いずれも、日本社会の貧困を象徴する言葉だ。これらの言葉は、日本社会が本当のところ、豊かどころか貧しいのではないか、という状態を示唆している。とりわけ、子供も老人も貧困ということであれば、人生の始めと終わりの部分に貧困が蔓延しているということになる。しかし、貧困は世代を超えて現代日本の深刻な問題の1つなのである。
 マスメディアなどでは、今年の企業は巨額の利益を計上している、あるいは株価が上昇していると囃し立てていますが、それが国民一般の生活実態を反映しているとはとうてい思えない。それが証拠に、下の表から分かるように、生活保護受給者数と生活保護世帯数はピーク時(1990年)が底で、最近ではその2倍以上に達しているのだ。
              生活保護受給者数   生活保護世帯数
1970(昭和45年)          1,344,306      658,277
1990(平成2年)          1,014,842      623,755
2014(平成26年2月)        2,166,381     1,598,818
2015(平成27年7月 推計)     2,168,000     1,625,000
出所
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/051604.pdf (2015.4.10参照)  第17回社会保障審議会生活保護基準部会 平成26年5月16日
 つまり、自力で生活できない貧困層が確実に増えつつあることを示している。「アベノミクス」で経済が好調なはずなのに、なぜなのか。まず、企業業績がいいといっても、それは一部上場の大企業、とりわけ輸出中心の企業のことで、それらの企業でさえ、得た利益を労働者の賃金の上昇に向けるのではなく、内部留保としてため込んでしまっているのだ。
 ところが、企業は増益分をせっせと内部留保し、今ではその額は300兆円をはるかに超える額に達している。 大企業による内部留保資金はしばしば、富裕層の増加を見込む東南アジアの企業買収などに向けられているようだ。しかし、中小企業は、まったく別で、円安政策の影響もあって、原材料費の高騰が経営を圧迫している。 東京商工リサーチの調べでは、赤字率(22.5)も減益企業率(45.5%)も上昇しており、経営の苦しさを表している。
  安倍晋三首相は、「戦後最大の経済と国民生活の豊かさ」を掲げ、「アベノミクス」を導入した。 内閣府の試算によると、政権が掲げる「名目3%、実質2%以上の高成長」を続けると、20年度に名目GDPが594兆円に達するという。ここ20年、日本の名目成長率が3%を超えた年は一度もない。それどころか、せいぜい潜在成長率が1%未満といわれる今の日本では、きわめて高い目標で、多くのエコノミストは、上記の目標はまったく非現実的だ。アベノミクスは企業を強くしたが、その恩恵が家計までは届かず、逆に円安による物価高が家計に負担になっているのだ。
  一時盛んに宣伝された、大企業の業績が向上すれば、やがて広く国民全体に滴り落ちるという「トリクルダウン」は起きていない。この大きな理由は、相対的に賃金が低い非正社員(派遣社員、契約社員、嘱託、パート、アルバイトなど)の増加に歯止めがかからないからだ。 首相は会見で「アベノミクスで雇用は100万人以上増えた」と胸を張ったものの、政権発足前の12年春からの3年間で、正社員は56万人減る一方、 非正社員は178万人も増えたのだ。 収入も減少している。民間の平均給与は、ピーク時の1997年の467万円から、2013年には63万円も減少し、令和1年には100万円近く減少したのだ。しかも、正社員と非正規との賃金格差は非常に大きく、国税庁の調べでは、2014年の実績で、正規社員の平均年収に対して非正規(派遣を含む)社員は3分の1ほどである。
  非正規雇用の場合、退職金はほとんどなく、厚生年金、健康保険、雇用保険などの面でも非常に不利な状況だ。 改正労働者派遣法とならんで、労働者を解雇し、裁判で会社側が敗訴しても解決金によって解雇できる制度や、いわゆる「残業ゼロ法案」を目論む政府と企業は、一般の労働者の地位を不安定化させ、所得水準を下げようとしているとさえ見える。この傾向は、今後もさらに進んでゆくと思われる。というのも、改正労働者派遣法の施行で、企業は働く人を代えれば派遣社員をずっと受け入れられるようになるため、正社員を派遣に置き換える動きが加速すると考えられるからだ。
 こうした、労働者に対する不利な条件が次々と押し付けられる一方で、企業に対する法人税の実効税率は現在、34・62%(標準税率)ですが、段階的に20%台に引き下げる。 税率の引き下げで税収が減る分は、ため込んだ内部留保からではなく、赤字の企業でも事業規模などに応じてかかる「外形標準課税」を強化するなどして、段階的に穴埋めする、としている。この措置で、大きな影響を受けるのは、赤字を抱える多くの中小企業と、そこで働く労働者だ。安倍内閣は、大スポンサーである経団連に加盟する大企業を優遇し、中小企業や一般の労働者には非常に過酷な負担を強いている。その上、政府は貧しい人からも消費税を10%に引き上げたのだ。
 これに対して、いわゆる「軽減税率」の適用範囲を酒や外食を除くすべての食料品に適用する案が浮上していますが、これは実に国民をバカにした話だ。かつて日本人は「一億総中流」と言われたが、近年は、ごく一部の恵まれた人たちを除いて、中流から下方へと転落する人が増えている。生活保護受給者とその世帯の増加は、このことをはっきりと示している。この点について内橋克人氏は、実に鋭い指摘をしている。つまり、彼は安倍政権の本質は貧困層を広げる点にあるのではないか、と疑っている。というのも、国民が日々の生活に困窮すればするほど、深く政治や経済政策について考える余裕がなくなり、政府にとって組みしやすくなるからだ。 実際、格差や貧困を助長すらしている現政権の支持率は、依然として高い水準を保っている。その秘密にたいして内橋氏は次のような鋭い分析を加えています。
 「長きにわたる経済の停滞により、ただでさえ貧困層は増えている。そうした中で、株価などうわべの数字を信じ込む人が多くなっているのではないか。また『不安を持つとお上を頼る』という日本人の国民性も影響している。アベノミクスが、一般の国民を豊かにする可能性が、現実問題として非常に少ないことは、これまでみた通りです。むしろ格差は広がり貧困が浸透していることの方が事実に近いと思われます。しかし、日本人には、貧しくなればなるほど、将来の生活に不安を持てば持つほど、政府に対する批判的な姿勢は薄れ、少しでも経済が良くなるような幻想を与える言葉を信じたがる傾向にある」というのが内橋氏の主張だ。
 アベノミクスの失敗、したがって貧困の浸透は、憲法改正や集団的自衛権の行使などに対する批判を弱める可能性がある。この意味では、アベノミクスの経済的失敗は、政治的には安倍政権の思い通りということになる。 安倍政権が、政治的野心を達成するために、意図的に経済的な失敗を画策したとは思いたくないが、結果的には、そのシナリオに沿って物事が進行し ているのではないか。
posted by GHQ/HOGO at 06:21| 埼玉 ☔| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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