2018年05月21日

多くの政策は「思い込み」で実行される

 今、世界で最も注目される開発経済学者の1人であるエステル・デュフロ氏は、MIT(マサチューセッツ工科大学)のチームの仲間たちと一緒に、ランダム化比較実験(RCT)を世界各地で実践している。RCTの基本はシンプルである。特定の政策の対象になるグループと対象にならないグループをランダムに分けて、政策の効果を客観的に計測するのだ。たとえば、子供を予防接種会場に連れてきた親に、1キロのレンズ豆(インドでは主食の一部)というささやかな報償を与えることにする。
 さて、接種率はどのくらい向上するだろうか。調査協力者をランダムに選び、一方のグループ(処置群)では親にレンズ豆を与え、別のグループ(対照群)には与えない。そして、処置群のほうで予防接種率が向上したとしたら、それは純粋にレンズ豆の報償の効果だったことがわかる。
 日本のような先進国でも、同じような実験を考えることができる。禁煙の促進、出生率の向上、自殺率の低下、女性の地位向上、学力の向上、生活習慣病の予防、より一般的に各種の補助金の効果など、多様な政策への応用が考えられる。
 商品のマーケティングにも応用できるだろう。たとえば、ランダムに選んだ顧客グループごとにダイレクトメールの内容を変えて、反応の違いを統計的に観察してみるわけである。市民や顧客に何を提案したら目標を達成できるのか、科学的に効果を計測しよう、ということだ。
 発展途上国でも日本でも、多くの政策は「思い込み」や「期待」だけで実行に移され、客観的な効果は検証されないままである。しかし、デュフロ氏たちのチームの活発な活動が推進力となって、途上国のあちこちでRCTが大規模に実施されるようになってきた。
 2010年以降も、デュフロ氏のチームは世界で実験を繰り返している。デュフロ氏のホームページを訪問すると、すべて英語ではあるが、彼女が執筆に参加した論文の多くをダウンロードして読むことができる(https://economics.mit.edu/faculty/eduflo/papers)。実験がどこまで広がっているか、どのような結果が報告されているか、ワンクリックで最新の状況がわかる時代になった。このようにRCTが普及してきた今だからこそ、RCTには何ができて、何ができないかを整理しておくことが大切だろう。
 デュフロ氏は貧困を解消する「魔法の杖は存在しない」というメッセージで締めくくられているが、最近は、RCTが万能の魔法の杖だと勘違いする人も増えている気がする。
posted by GHQ/HOGO at 07:26| 埼玉 ☔| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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