2017年12月17日

「生活扶助基準」切り下げに算定根拠があるのか?

 2013年5月、生活扶助基準が切り下げられたが、過去に例がないほどの下げ幅で、その算定に根拠がないのではないか。このため、全国各地で、切り下げの違法性、違憲性を訴える訴訟が起きている。
 憲法25条は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利を保障し、これを実現するため、生活保護制度がある。問題となっている生活扶助は、住居費や教育費以外の日常生活費用を援助するもので、給付額は厚生労働相が定める基準による。その決定は、恣意的であってはならない。判例・通説は、合理的な根拠・資料なしに基準を定めるのは違法・違憲ではないのか。
 制度発足当初、生活扶助基準は「マーケットバスケット方式」により決定され。これは、最低限度生活に必要と思われる物品とその数量をリスト化し、その物品の平均的な価格を積算して、基準額を定める方式である。しかしこれには、最低限度生活に必要な物品の選択が恣意的になりやすいとの欠点がある。
 そこで、1984年より、「消費水準均衡方式」が採用されるようになった。これは、各世帯の消費支出を調査し、「一般世帯」、「収入下位20%の一般世帯」、「生活保護世帯」の数値を比較し、その均衡を図りながら基準額を定める方式だ。
 13年の切り下げに当たり、厚労省は新たに、@「収入下位10%の一般世帯」の消費支出との均衡、A2008年から11年にかけての物価下落率4・78%を加味すること−とした。しかし、これらはまったく切り下げの根拠にはならない。
 まず、現状、生活保護制度の捕捉率は20%程度と言われており、「収入下位10%の一般世帯」には、生活保護を受給する資格があるのに、受給できていない世帯がかなり含まれている。にもかかわらず、生活扶助基準を「収入下位10%の一般世帯」に合わせたら、基準額は際限なく低下してしまう。
 また、4・78%もの物価下落は、総務省が長年使ってきた指数ではなく、厚労省が引き下げに際して独自に算定したものなのだ。この指数については、比較の基準年と考慮品目のウエートを恣意的に操作しているという指摘がある。具体的には、テレビやノートPCなどの電化製品の価格下落が不当に大きく反映され、極端な物価下落を示す数値になっているという(白井康彦『生活保護削減のための物価偽装を糾す』)。
 さらに、仮に4・78%もの極端な物価下落があれば、当然、一般世帯の消費支出の金額も大きく低減するはずなのだ。つまり、物価の上昇・下落は、消費水準均衡方式の採用自体によって、すでに基準額に反映されているはずだ。それに加えて、さらに物価下落を基準額算定に反映させるのは、物価下落の二重計上になってしまう。そうすると、物価下落を考慮すること自体が、計算を不正確にしてしまい、不適切なのだ。
 もちろん、社会状況によっては生活保護基準額を下げるべき場合もある。しかし、13年の切り下げは、合理的な資料・根拠に基づくものとは到底言えないのである。生活保護バッシングの風潮に便乗した、不当なものだったのではないか。生活保護は、生活困窮者の最後のとりでであり、憲法が保障する権利であることを考える必要があるはずである。


posted by GHQ/HOGO at 08:29| 埼玉 ☔| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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