2013年10月14日

隠されている生活保護の現状がわかるのか? もう1度考える

年金や医療は誰もがお世話になるので、多くの人がわがこととして想像し、制度のあり方を考えることができるかもしれない。しかし、生活保護を受けるような貧困を、わがこととして想像することはかなり難しいかもしれない。どうしても報道される特異なケースの印象に引きずられ、「不正受給けしからん」とか、「餓死するまで放置するのはけしからん」といった主張をしがちである。結果的にそういう主張が正しいのかもしれないが、主張をする前にまずは、生活保護の現場の実態を、先入観を排して見つめることが大切ではないか。

 平均的にはどういう人たちが受給し、その人たちの思いや暮らしはどのようなものか。 ケースワーカーはどういう基準で生活保護を認めるのか。特に収入、資産、扶養。不正受給は、ごく例外的なものか、かなりの割合を占めるのか。そういった点について、特定の主張を持つ人が加工した二次情報ではなく、現場のケースワーカーや受給者の生の声を聞くことが足りないのではないか。ベーシックインカムは実現困難、負の所得税では生活保護は代替できないので、生活保護を地道に見直していくのが最も有益ということになるのかもしれない。

 少し前の資料だが、材料にしてみた。

@ ヨーロッパよりもアメリカよりも小規模な生活保護

 さて、まずは、医療と同じように、生活保護支出の対GDP比の国際比較を見てみよう。 残念ながら、公的な場で引用されているものは見つけられない。信頼できる統計がないのだ。唯一見つけられたのが、埋橋孝文という同志社大学の先生が1999年に書いた「公的扶助制度の国際比較 」というレポート。出典は「Social Assistance in OECD
Countries 1996
」の中にある、1992年のデータのようだ。

 それによると、公的扶助支出額のGDP比は、日本0.3%、イギリス4.1%、フランス2.0%、ドイツ2.0%、イタリア3.3%、アメリカ3.7%、カナダ2.5%。1990年代前半の日本の生活保護費は1.3兆円。GDP500兆円の0.3%で符合する。今は3兆円なので0.7%。

 公的扶助を受けている人数の人口比は、日本0.7%、イギリス15.9%、フランス2.3%、ドイツ5.2%、イタリア4.6%、アメリカ10.0%、カナダ15.0%。当時の日本の生活保護受給者は90万人、今は200万人なので1.5%。

 この数字自体は、各国の制度が異なる中で「公的扶助」の定義に差があったり、20年前の値段だったりして信用できない、という限界はある。しかし、日本の生活保護は、ヨーロッパはもちろん、自己責任なイメージのあるアメリカよりもかなり小規模という傾向としては、正しいだろう。

A 低い捕捉率と高い給付額

 日本の生活保護制度の特徴としてよく挙げられるのが、生活保護基準以下の世帯の何%が実際に保護を受けているかという「捕捉率」の低さ。ウィキペディア
には「イギリスでは87%、ドイツは8590%なのに対し、日本は約1020%」と書かれている。この数字自体は、各国の制度の違いもあるし、分母の正確な数字がわからない中での研究者による推定値なので、信頼性に欠ける部分はある。ただ、数字はともかく、日本はヨーロッパやアメリカに比べて貧困に陥っても容易に扶助を受けられないという傾向としては、正しいものだろう。

 一方で、生活保護の受給世帯当たりの給付額は、単独の制度としては日本のほうが多いかもしれない。厚労省がUFJ総研に委託した「我が国の生活保護制度の諸問題にかかる主要各国の公的扶助制度の比較に関する調査」の報告書に比較があった。

 単身者で日本が月84,850円、イギリスが46,146円、フランスが 52,513円、ドイツが43,240円、スウェーデンが45,284円、アメリカが26,356円とのこと。

 ということで、日本の生活保護は、捕捉率が低くなかなか受けられない割に、受けることになれば額は多い、という傾向にあるようみえる。ただし、他の制度による支援を含めるとその限りではないかもしれない。

B 急増する受給者、高齢者・傷病・母子で8割を占めるも「その他」が急増

  今年1月時点で1.64%。1995年の0.70%に比べて約2.3倍と急増している。もっと遡ると、1951年には2.42%だったのが、高度経済成長とともに下がり1970年に1.30%。オイルショックで下げ止まり、バブル景気で下がり1990年に0.82%、バブル崩壊以降急増という経過をたどっているようだ。

 次に、受給世帯の構成比。 2010年は、高齢者世帯が42.9%、傷病・障害者世帯が33.1%、母子世帯が7.7%と、この3つで83.7%を占める。貧困な人一般を対象にしているというより、働くのが難しい特定の類型の人たちを対象にしている印象である。ただ、10年前はこの3つで92.6%を占めていたので、その他の受給が7.4%→16.2%と大幅に増えている。働けるけど職がなく、核家族化で親族の扶養も得られないという人たちである。

 もう1つ注目すべきは、生活保護費の内訳。2010年で33300億円の生活保護費のうち、医療扶助が47.2%の15700億円。お金がない人への生活費の支給だけでなく、病気を抱えた人への医療の無料支給という面が大きいことがわかる。この医療扶助をどう考えるかも、制度見直しの大きなポイントになりそうだ。

C 不正or不道徳な受給がどの程度あるかは、正直わからない

 厚生労働省によれば、生活保護の不正受給は、2010年度で約25千件、約129億円 だったそうだ。129億円を単純に総額の3.3兆円で割れば0.4%になるわけだが、これをもって、不正受給は全体の0.4%という微々たるものだとはとうてい言えない。これは確定的に不正受給と判断したものを足しただけで、水面下にどの程度の不正受給が潜んでいるか、いわゆる暗数はまったくわからない。

 さらに、不正とまでは言い切れないけど、不道徳な受給もあるかもしれない。そのような不正受給の暗数とか、不道徳な受給とかを推定するのは至難。しかし、今のままでは、不正or不道徳な受給がごく例外的なのか、かなりの割合を占めるのかが分からず、イメージだけで考えてしまい議論が収斂しない気がする。難問だが、ここは基本に帰って、真実は現場にあるのではないかを検討することだ。

 「現に不正はある、類似例が山ほどあるに違いない」と想像を膨らませる前に、実際にどういう運用をしていて、怪しそうなケースとしてどんなものがどの程度あるのか、現場のケースワーカーの声をじっくり聞くことが大切だと思う。



posted by GHQ/HOGO at 10:32| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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