2012年09月09日

子供たちは貧困の連鎖にむしばまれている

  5年ほど前、「貧困」が新たな社会問題としてクローズアップされはじめたときには「いくら不況とはいえ、GDPが世界第2位の日本でまさか……」と誰もが思ったことだろう。それから数年を経て、日本に貧困問題が存在していることは一般に認知されてきたものの、今のところ抜本的な改善策が講じられていない。それどころか、長引く不況にデフレ、円高が重なり、事態は徐々に悪い方へと進んでいる。

 「高齢者に手厚く、若者に厳しい」という日本の支援制度の特徴を反映するように、これまでの貧困問題はとくに20代〜40代の若年層をイメージして語られることが多かった。ニート、フリーター、ネットカフェ難民、ワーキングプア……次々と現れる新しい貧困層の存在に社会は動揺し、彼らを定義するために多くの言葉が生まれた。

 しかし、もはや貧困問題は子供さえ例外ではない。『ルポ 子供の貧困連鎖 教育現場のSOSを追って』(光文社)は、保育園から高校生までの子どもたちが直面する貧困の現場に向き合った1冊だ。

 ユニセフによれば、日本における18歳未満の子供の相対的貧困率は14.9%。先進35ヵ国中ではワースト9位という、目も当てられない成績だ。7人に1人は貧困状態、つまりクラスに35人の生徒がいれば、そのうちの5人が「貧困児童」というのが実態である。では、そんな子どもたちを抱える教育現場では、どんな事態が起こっているのだろうか? 本書でつまびらかに描かれている内容を一部紹介しよう。

 「定時制高校に通う陽子は、朝6時〜9時までコンビニ、10時〜15時までファーストフード店、17時〜21時まで学校に行った後、飲食店で深夜バイトという毎日を送っていた。仕事が終わるころには、すでに終電はない。真冬の私鉄沿線の街は寝静まり、深夜3時には駅の明かりも消えている。行き場所のない彼女は、駅前にある多目的トイレに入った。車椅子でも使えるように広く設計されたその場所で眠りにつくためだ。そして、2時間ばかりの浅い眠りについた後、彼女はまたコンビニのバイトへ向かう。「トイレは寒いけど、横になれる場所があるとほっとする。眠れるだけで『幸せ』って感じ」。トイレで眠る彼女が感じた“幸せ”とは、いったいなんなのだろうか」

 民主党政権になり、2010年からは子供手当の支給と、高校無償化が実施された。「チルドレン・ファースト」を公約として掲げていた民主党政権は、この国の将来を担う子供のために財源を使い、子育てにかかる出費は軽減されるものと期待された。しかし、高校を例にとれば、公費負担は授業料のみ。修学旅行積立金、PTA会費といった月1万円ほどの負担は、家計にのしかかる。以前なら授業料とともにPTA会費なども免除になっていた低所得家庭の生徒にとっては、実質的な値上がりだ。本書では、月5万円の奨学金を得ることができても、家賃の支払いと借金返済のために親が使い込んでしまうという事例もレポートされている。

 大阪府内のある小学校では、保健室を訪れる児童に対して給食の残りのパンと牛乳を出している。この地域の就学援助利用率は40%に上り、給食以外に満足な食事も摂れない児童は多い。目が悪くなってもメガネを作ることもできず、成長する子どもの体格に合わせた体操服を用意できない家庭もある。保育園では車上生活を送る園児や、親によるネグレクト(育児放棄)や虐待などを受ける園児が後を絶たない。

 本書の内容は、一般的な教育を受けて育ってきた読者にとっては、思わず目を背けたくなるものばかりだ。しかし、このような事例は、どこの学校でももはや特別なものではない。むしろ、本書に登場する生徒・児童たちは、まだマシといえるだろう。取材に協力する先生たちは、勤務外の労も厭わず、自分の時間を削りながら子どもたちを支えているからだ。しかし、それはあくまでも教師たちの個人的な熱心さのなせる業。この子どもたちを支える社会的なシステムは存在していない。

 いまだに「貧困は自己責任である」という風潮は強い。確かに自己責任の側面もないとは言い切れないが、親のネグレクトや借金問題などによって貧困に直面する子どもたちに限っては、それは当てはまらないだろう。3つのバイトを掛け持ちし、公衆トイレで眠りながら定時制高校に通う少女に「それは、あなた自身の責任です」とは言えない。そして、満足な教育を受けることができない彼らの大部分は、おそらく数年後に、ワーキングプアとして労働市場に送り込まれるのだ。

 豊かな日本の裏側で、子供たちは逃れることのできない連鎖に蝕まれている。



posted by GHQ/HOGO at 07:54| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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