高齢層の被保護率が90年代後半まで順調に低下してきたのは、公的年金の受給者が増加し、高齢時における所得保障の仕組みが整備されてきたことを反映している。それ自体は、大変望ましいことである。公的年金は高齢時の所得保障機能を強めてきた。ところが、その後の被保護率の上昇傾向は、もちろん長期不況という要因は働いていると考えられるものの、公的年金による所得保障では十分できない貧困化が高齢層の中で進んでいることを示唆している。
今後についてはどうか。国際医療福祉大学の稲垣誠一教授の試算によると、現行の公的年金制度を所与とし、国民の家族構成や就業パターンが今からあまり変化しないと想定した場合、所得が生活保護の基準額を下回る人の比率は、女性では現在の12%程度から2060年ごろには約25%へ、男性でも6%程度から13%程度にまで上昇する。稲垣教授の計算通りになれば、高齢世帯の保護率も現在の水準の倍ほどに高まることになる。短時間就労の非正規雇用の広がりにより、年金保険料の拠出実績が乏しい人たちが増えつつある。
こうした人たちが年金受給年齢を迎え始めると、「貧困の高齢化」は本格化していく。現行制度は対応できるのだろうか。