第十章 被保護者の権利及び義務
(生活上の義務)
第六十条 被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、自ら、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない。
(指示等に従う義務)
第六十二条 被保護者は、(略・保護の実施機関(=福祉事務所)が)被保護者に対し、必要な指導又は指示をしたときは、これに従わなければならない。
3 保護の実施機関は、被保護者が前二項の規定による義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる。
4 保護の実施機関は、前項の規定により保護の変更、停止又は廃止の処分をする場合には、当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならない。この場合においては、あらかじめ、当該処分をしようとする理由、弁明をすべき日時及び場所を通知しなければならない。
少なくとも、生活保護利用者のギャンブルを直接に禁じる条文は、生活保護法全体を通じて存在しない。また、厚労省の通知等に存在したこともない。法の解釈をめぐる問題で悩む日本全国のケースワーカーから「知恵袋」として信頼されている吉永氏は、「パチンコで生活保護停止」の法的根拠を、どう見るだろうか。
「新聞報道によると、生活保護法第60条を根拠にしています。しかし、第60条は罰則がなく、訓示規定とされています。訓示規定を根拠に生活保護を停止・廃止(打ち切り)するのだとしたら、根拠のない不利益処分ですから、違法となります」
まぎれもなく、「生活保護の停止」という行為は違法であるようだ。しかし、生活保護利用者たちが「遊技場には立ち入らない」を含む誓約書を提出したにもかかわらず違反した、という主張が可能ではある。
「ですが、被保護者の何らかの非違行為を理由にした不利益処分を行うには、生活保護法第27条1項による指導指示を改めて行わなければなりません」
(指導及び指示)
第二十七条 保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。
2 前項の指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない。
3 第一項の規定は、被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。
「この生活保護法第27条1項に基づく不利益処分には、その処分が実体的に適法であり非違行為に対するバランスも取れていることに加え、手続的にも適法であるという、の2つの意味での適法性が必要です」
処分が合法的であると考えるのは、条文を見る限りは難しそうだ。
残るのは、対象となった生活保護利用者たちが、「遊技場には立ち入りません」という内容を含む誓約書を提出していたにもかかわらず、誓約書の約束を破ってしまったことに関する問題だ。これに関しては、京都府宇治市で起こった類似の事例がある。
宇治市では、母子世帯の母親に対して「前夫に養育費を請求します」「異性と同棲しません」「出産したら生活保護を辞退します」などの内容の誓約書を提出させていた。しかし2012年、このことが宇治市議会で問題となり、2012年11月には関与したケースワーカー18人が処分を受けた。生活保護法・厚労省通知等に規定がないにもかかわらず、生活保護利用者に何かを強要することは、本人の同意や誓約という形をとっていても許されないのだ。