所得格差は、制度や政治的アクターが異なる所得水準にどのように対応しているかという点で民主主義を歪めるだけでなく、市民参加に作用するソーシャルキャピタルの発展に、大きな影響を与える可能性がある。
民主主義は、単なる投票行動だけでなく、市民が地域社会へ積極的に参加することを必要とする。ソーシャルキャピタルの基盤となる考え方は、社会関係の親密なネットワークに埋め込まれた市民的美徳(civic virtue)こそが最も効果がある、というものだ。アメリカの市民社会は、アメリカ人が自発的に組織に参加して、結合的な生活を送ることで形づくられている。そして、これらの組織を通じて、彼らは地域社会が抱える問題に関与していく。
所得格差と市民参加の関係に関する研究で、レビン・ウォルドマンは、2008年において異なる所得水準にある世帯の個人が、市民参加の度合が異なることを明らかにした。そこでは、市民参加について6つの尺度が考慮されている。政治についての日常的会話、新聞を読むこと(政治についての知識と関心を話すことが意図されている)、抗議活動への関与、政治的会合への参加、公的機関への訪問、市民団体への参加である。
年間10万ドル以上を稼ぐ世帯は、すべての基準で年間3万ドル未満を稼ぐ世帯よりも参加率が高いことが明らかとなった。所得分布の最上位層は、必ずしも年間3万ドルから9万9999ドルまでの世帯よりも高い結果になるわけではないが、年間3万ドルから5万9999ドルの世帯は、年間3万ドル未満の世帯よりも政治参加の傾向が非常に高まる。
3万ドル以上の所得がある世帯の個人は、市民参加は劇的に高まると言える。これらの違いは、中流階級に加わることが市民参加の度合いを押し上げることを示唆している。加えてロジスティック回帰分析の結果として、より高い所得の人々は市民参加に加わる可能性が高まり、最低賃金以下の人々はその可能性が最も低いことも明らかになった。
所得の不平等が市民参加に悪影響を与えること以外にも、それは政治的アノミー(無規範)に結びつく可能性がある。世帯間の所得格差が拡大するにつれて、中央値未満の世帯は社会的規範から距離を置くことになる。同時に所得分布の最上位にいる人々も、彼ら以外の人々との大きなギャップを感じていく。
分布の最下層にいる世帯は、ますます社会のメインストリームから離され、そのことで疎外を感じていくだろう。多くの資産を持つ人々は、彼らを価値のない異質なものと見なすかもしれない。このことは、政府の機能と潜在的役割に対する市民の見方にも影響を与えるだろう(Haveman, Sandefeur, Wolfe, and Voyer 2004)。貧しい人々は、政治参加の傾向をますます低下させるため、より大きな社会的疎外を経験する。こうして、彼らは共通の利益からますます離れていくだろう。
しかし結局ところ、社会的孤立から生まれる疎外感は、彼らが共通の政治的プロジェクトに参加しても何の利益も生み出さないという結論になりがちなため、政治参加を生み出すことは殆ど無い。資源が不均等に分配されている場合、富裕層と低所得層の双方が、互いに同じ運命を共有していると感じなくなる。こうして彼らは、異なる背景を持つ人々を信頼しなくなってしまう。
不平等性が高い場合、人々はその運命を自ら決定することに楽観的でなくなる。不平等の増大は、信頼の欠如
不平等の増大により、民主主義への深刻な脅威が生まれていることは明らかだ。民主主義の脆弱性に左右されるため、不平等が民主主義に対してどのくらい破壊的であるかを確実に予測することはできない。しかしアメリカでは、選挙による代表者がもはや全ての人々を平等に代表しておらず、民主主義の明らかな侵食が見られる。
資産を持つ人々、中でも政治運動に関わる人々の声が、ますます反映されていく。一方で持たざる人々は、ますます政治から締め出されていることに気が付いている。脆弱な民主主義国家では、政府の応答性は不安定だ。そしてアメリカでさえ、様々な社会的抗議運動でこうした兆候が見られる。
2016年の選挙結果は必ずしも所得格差の拡大に対する反応ではないが、明らかにそれは、所得格差の拡大という症状が生まれている経済情勢に対しての反応であった。
具体的に言えば、賃金の上昇と雇用の創出をもたらすことができなかった政界のエリートに対して、明らかに有権者は反撃を加えた。有権者は、少なくとも修辞的には、国境の開放や自由貿易に反対する候補者を選び、政界エリートが推進するグローバリズムに対決姿勢を見せた。
そのグローバリズムこそが、スキルを持った上位の高収入労働者と専門性を持たない底辺の低収入労働者を分断する経済を生み出している。
ドナルド・トランプの選出が、権威主義への欲求を表していると結論付けることは言いすぎかもしれない。しかし彼の批判者はそのように見ており、もし有権者が経済状況に対する権威主義的な解決策としてトランプを選んだのでなければ、それは近年の拡大する不平等の源泉となっている経済状況に対する明確な答えになっている。
posted by GHQ/HOGO at 07:29| 埼玉 ☔|
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