「もしも生活保護業務が外部委託されたら、今の介護保険のケアマネと同じようになるのでしょうね。必要な支援でも『そこまでするな』と言われたら差し控え、生活保護からの脱却に数値目標を設けられたら、その通りに生活保護を辞退させて」
すると、北九州市で2007年に発生した、生活保護を辞退させられた男性が「おにぎり食べたい」と書き残して餓死した事件と同様の問題が、日本全国で頻発するのかもしれない。しかし行政は、批判を恐れる必要はない。業者を入れ替えれば、「トカゲのしっぽ切り」ができる。そして業者の選択肢には事欠かない。行政は、最終的な責任を負わなくてよくなる。
この、紛れもないディストピアを現実化させないためにどうすればよいだろうか。
「行政の質を高めて、委託の余地をなくすことでしょう。繰り返しになりますが、今が良い状態というわけではなく、今だって良い状態ではないのですから。国がわざと、生活保護業務を質を上げにくいようにしている感じもあります。でも、一度変えたら、一度外部委託を許したら、大変なことになります」
2017年12月5日、生活保護制度に関する国と地方の協議のとりまとめには、「ケースワーク業務等のあり方について」として、「稼働能力のある者に対する就労支援や不正受給対策などの業務を効率的・効果的に行う観点から、ケースワーク業務の重点化や外部委託のあり方」を議論するとある。生活保護業務の外部委託は、現在表舞台への出番を舞台袖で待ち構えている状態だ。Aさんの危惧は、空想でも妄想でもなく、大いに現実化する可能性を持っている。
誰の生存権も保障されず、誰もが大きな不安を抱えて怯えるディストピア。近未来の日本をそんな世界にしたくないのなら、まずは生活保護法再改正に関心を向け続けるしかなさそうだ。