2019年04月30日

「支給基準10%カット」の意味するもの

 何より大きかったのが、政治的な動きが目に見えて加速したことだ。
 この一連の生活保護バッシングに大きく関わった国会議員が所属する政党が主宰する生活保護に関するプロジェクトチームでは、生活保護に関する改革案を提言していた。そこでは、支給基準を10%カットすることや、お金ではなく食料などの現物給付にすることなどが盛り込まれたほか、議論のなかでは、就労可能な人は生活保護受給期間を有期にする、などといった話も出た。
 まず、「支給基準の10%カット」。これは、とても大変な話だ。確かに、生活保護が財政を圧迫しているという議論はある。しかし、ある日突然あなたが、会社から給料を10%カットすると言われたら、きっとたまったものではない。
 しかも、生活保護基準というのは生きていくための、ただでさえギリギリの額だ。都内で言うと、生活費だけでも1ヵ月で約7〜8万円かかるだろうか。その10%といえば、相当な重みを持ってくる。多くの人がまっさきに食費を削るだろう。冷暖房を抑えたり、外出をひかえて家に引きこもるかもしれない。高齢者や傷病・障がいを持つ人にとってみれば自体はさらに深刻で、最悪、死活問題になりかねない。
 そして、生活保護基準が下がるということは、最低賃金の下限も下がるなど、生活保護以外のほかのさまざまな制度にも大きな影響を及ぼすのだ。誰にとっても決して他人事ではない。
 次に、食料などの現物支給。これは現実には難しいはずだ。コメの配給にするのか、一部のお店でしか使えないクレジットカードのようなものにするのかわからないが、何を食べるか、食べられるかは人によって違う。それに、そういった配給のほうが間に業者が入って中間マージンをとるなど、余計なコストがかかる可能性が高い。
 最後に、就労可能な人の生活保護を有期にするというものだが、もし仕事先が見つからなかったらその人はどうなるのだろう。僕が知り合ったホームレスや生活困窮者の多くは、可能なら仕事がしたいと希望している人たちだった。しかし仕事が見つからない。有期化の議論は、結果的に生活保護が必要な人を機械的に締め出すことにつながりかねない。
 これらの提案は、あくまで1つの党のなかでの議論に過ぎなかった。しかし、メディアが煽りに煽った生活保護バッシングという潮流は、政策決定の場にまで大きな影響力を持っていくことになる。支援団体は、半ば絶望感を持ちつつも、その流れに抗おうとしていた。


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2019年04月29日

私たちは恥ずかしい存在なのでしょうか?

 メディア等で爆発的に取り上げられるようになったお笑い芸人の不正受給問題は、誰にとっても脅威以外のなにものでもなかった。
 報道合戦が連日繰り広げられ、国会議員までもがそれに参戦し、国会質問のなかでまで取り上げられるようになった。あるワイドショーでは生活保護についての街角インタビューなどもおこなわれたし、お笑い芸人の事例を超えて、生活保護という制度自体についての報道も増えていった。
 ○○市で不正受給があった、××区で生活保護受給者がタクシーで通院していたなど、実際にそれが適法なのかどうかといった検討をおこなうこともなく、「生活保護」や「不正受給」といった言葉がひたすら消費されていった。
 それにともなってか、「不正受給が増えている」「悪質な事例が増えている」「生活保護受給者は怠けている」などの言説が、ネット上にもあふれかえるようになった。
 認定NPО法人もやいが行っている居場所づくりの活動「サロン・ド・カフェこもれび」には元路上生活者や生活保護の利用者の人たちが多く訪れてくる。彼ら・彼女らは、みんな不安な声をあげていた。
 「テレビをつけるのが怖くなりました。出かける時も、周りの人に後ろ指をさされていないかが気になって。最近は引きこもりがちになりましたね......」
 「大家さんに家賃を納めに行ったら、あんたたちは社会の恥だ! って、怒鳴られちゃって......」
 「この前、テレビのクルーがD区のフクシに来ていて、支給日に並ぶ人たちを撮っていたんです。もちろん、モザイクは入るんでしょうけど、それ以来、テレビを見るのが恐ろしくなりましたよ」
 もちろん、なかには深刻に受け止めすぎていたり、なかば妄想じゃないかと思うようなものも含まれていたりしたのだが、でも、現実に彼ら・彼女らの多くが生活保護バッシングに本気で怯え、不安を覚え、日常生活に支障をきたしていた。
「担当のフクシのケースワーカーから、扶養照会について厳しくすると言われました。でも、私はDVで逃げてきたんですよ? 旦那に連絡されるんじゃないかと心配で......」
「私たちは、恥ずかしい存在なのでしょうか。迷惑な存在なのでしょうか。苦しいです」
 電話、ネット問わず、全国からも多くの声が寄せられた。なかには、「死にたい」と言ったきり電話越しで泣き崩れてしまう人もいた。統計で見ると、生活保護利用者の多くは高齢者や傷病・障がいをかかえた人たちだ。精神的な不調に悩まされている人も少なくない。過熱する報道や世間の眼差しによって、健康をより一層害してしまった人もいた。
 そして、もやいにも、「不正受給をほう助している」「生活保護の受給者を増やして税金を無駄使いしている」といった中傷が届くようになった。
「税金を使って生きているやつらを囲って金を巻き上げてるんだろう。偽善者め」
 こういった誹謗中傷は、相談窓口の電話にまで紛れ込んできた。電話対応をしているスタッフやボランティアたちも、どんどん疲弊していった。
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2019年04月28日

2012年からはじまった「生活保護バッシング」

「自分の母親が生活保護を受けているということについてどんなですか」
 テレビの生放送の記者会見で、レポーターが興奮気味に尋ねた。おびただしいカメラのフラッシュにさらされて、お笑い芸人の男性は涙ながらに謝罪した。
 「むちゃくちゃ甘い考えだったと深く反省しております」
 「自分の母親が生活保護を受けているということは、正直、誰にも知られたくなかった」
 2012年4月、女性誌が、匿名でお笑い芸人の母親が生活保護を受給していることを報道した。その後、各週刊誌やワイドショーなどでの報道が相次ぎ、やがて実名での報道がはじまった。
 5月に入ると、国会議員がブログやTwitterで言及する事態にまで発展し、同月25日には、テレビで全国中継されるなか、渦中のお笑い芸人が記者会見をおこなった。
 「税金を負担してくださっている皆さんに申し訳なく思っています」
 会見に同席していた弁護士の男性は、今回のケースはいわゆる「不正受給」にはあたらず、あくまで「道義的な問題」と説明していた。もちろん、民法上に「扶養義務」という規定はあるが、家族の状況はそれぞれだ。
 実際の生活保護法上の運用でも、「扶養は可能な限りおこなう」のが一般的だし、このお笑い芸人の場合は仕送りなども所轄のフクシ(福祉事務所)と相談しながらおこなっていたというから、法律上は不正受給にはあたらない。
 だとすれば、この「道義的な問題」とはなんだろうか。
 生活保護を受給すること自体が道義的な問題なのか。それとも、高額所得者でありながら母親を援助しなかったことが問題なのか。母親と親密な関係であったのに援助しなかったことが問題なのか。もしくは、母親からの暴力があるなど、劣悪な関係性であったのならば認められたのか。
 結局、いくら考えても納得のいく答えはでなかった。
 2012年4月にはじまったいわゆる「生活保護バッシング」は、その後の生活保護をめぐる法改正への布石となった。でも、当時はそんなことを知る由もなく、画面の中のお笑い芸人が涙ながらに絞り出す言葉を聞きながら、ただただ暗い気持になっていた。
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2019年04月27日

高齢者世帯の27%が貧困状態

 子供の貧困と並んで深刻なのが、高齢者の貧困だ。65歳以上の「高齢者のいる世帯」の貧困率は27.0%。つまり高齢者世帯の4世帯に1世帯以上が貧困世帯となっている。さらに65歳以上の1人暮らし(単身世帯)の貧困率を見るとさらに深刻さは増す。
・男性単身世帯……36.4%
・女性単身世帯……56.2%
 65歳以上といえば、年金生活を送っているのが普通だが、現在の年金給付レベルでは女性が6割近く、男性も4割近い単独世帯が貧困に陥っているのが現実だ。実際に、家計調査年報の2016年度版によると、無職の高齢単身世帯の実収入の平均は月額で12万2000円、年換算で147万円となっている。
 一方、日本の貧困問題は高齢者にとどまらず、いまや全世代の問題になりつつある、というデータもある。
 たとえば、現在40代の可処分所得は60代のそれと同水準になりつつあると言われている。非正規雇用者の増加で40代の平均所得はここ20年で1割減少しており、厚生労働省の「厚生労働白書」や総務省統計局の「全国消費実態調査」などを総合すると、所得の減少傾向は深刻さを増している。
 詳細は省略するが可処分所得で考えると、いまや40代と60代の可処分所得はほぼ同じレベルになっており、30代と70代の可処分所得も近づきつつある。年々、可処分所得が減少し続ける現役世代に対して、豊かな貯蓄を背景に可処分所得を上回る消費支出がリタイア世帯にみられる。
 言い換えれば、今後日本はあらゆる世代の年齢層が貧困にあえぐ時代が来る、と言っても過言ではないのかもしれない。日本の貧困率の高さは、母子家庭と高齢者ばかりがクローズアップされているものの、その実態は「日本国民総貧困化」なのかもしれない。
 まさに「We are the 99%」をスローガンにした「ウォール街を占拠せよ」の抗議運動を象徴するかのような現実が、かつて総中流社会と呼ばれた日本でも、現実のものになりつつある、ということだろう。
いまや99%に近づきつつある貧困層の問題を解決するには、シングルマザー世帯への救済や高齢者の労働環境整備などが必要になってくるだろう。
 貧困問題は、結局のところ格差社会の問題といえる。大企業、高学歴重視の政策がいずれは社会を混乱させてしまう。貧困問題の解決は、政府が緊急に直面すべき問題なのかもしれない。
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2019年04月26日

親から子へ、子から孫へ

 B 貧困の連鎖
 貧困問題の深刻さは、親から子へ、子から孫へという具合に世代を超えて連鎖していく傾向があることだ。「貧困の連鎖」と呼ばれるものだが、親の経済的困窮が子どもの教育環境や進学状況に大きな影響を及ぼすため、貧困は連鎖しやすい。
 大学既卒者の割合が50%を超え大卒が標準化した現在、大学に行けない世代が生涯賃金などで大きな遅れを取り、結果的に貧困の連鎖につながっている。むろん、業界や企業規模による賃金格差も大きいが、日本は依然として学歴偏重社会と言っていい。
 こうした現実をきちんと把握して対策をとる必要がある。大学進学のために多額の借金を抱えてしまう現在の奨学金制度では、抜本的な改革にはならない。むしろ大学卒業後の行動範囲を狭めてしまう。
 C 累進課税の歪み
 日本の累進課税制度は、一見公平なように見えるが、最も所得の高い勤労世帯と高齢者で所得の低い層とが同じレベルの「税負担率」になっている。税負担率が同じでも、収入が多ければそれだけ家計に及ぼす税負担は軽く済む。低所得の高齢者と金持ちの勤労世帯の税負担率が同じレベルでは、税の累進性は機能していないのと一緒だ。
今後、消費税率が上昇していくことになるはずだが、母子家庭で貧困にあえぐシングルマザーにとっては消費税だけでも高い税負担になる可能性がある。累進税制をきちんと機能させる税制にシフトすることが早急に求められるわけだ。
 安倍政権が進める働き方改革によって、同一労働同一賃金が実現する可能性が出てきたが、本当にきちんと機能するのか疑問もある。子育てと仕事を両立させるためには、これまでの価値観やルールに縛られていては前に進まない。
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2019年04月25日

1人親世帯の貧困率50.8%!

 貧困問題で注目すべきは2つある。1つは、1人親世帯の貧困率の高さだ。さまざまなメディアでも取り上げられているが、生活保護水準の所得に届かない低所得にあえぐ現状がある。
 もう1つの問題が、高齢者の貧困問題だ。母子家庭の貧困問題が喫緊の課題というなら、高齢者の貧困問題は将来の課題といえる。人口減少、高齢化などによって、政府や年金機構、健保組合などが、現在の給付水準を維持できなくなる可能性が高まっている。
 年金制度の崩壊などによって人口の3分の1を占める高齢者の半数が貧困に陥る可能性もある。人口減少への対応を含めて、早急に考える必要があるだろう。
 いずれにしても、子供の貧困問題は将来の日本に大きな影響をもたらす。7人に1人と言われる子供の貧困問題は教育機会の喪失につながり、将来的に大きな損失になる、と言っていい。どんな背景と原因があるのか。次の4つが考えられる。
 ➀ 労働環境の未整備
子供が貧困にあえぐ最大の原因は、言うまでもなく親の収入の低さである。1人親世帯の貧困率が50%を超えていることでも、それは明白だ。実際に、母子世帯の非正規社員比率は57.0%(2012年、出所:厚生労働省「ひとり親家庭等の現状について」)、父子世帯12.9%と比較しても、その差は歴然だ。
 日本特有の「ワーキングプア」と呼ばれる労働環境の悪さが背景にある。日本では、母親が1人で子育てに奔走しながら仕事を続ける場合、まず正規社員では雇ってもらえない。パートタイマーやアルバイトによって生計を維持していく必要があり、収入はどんなに働いてもたかが知れている。
 シングルマザーに対して冷たい企業が多く、子供がいても正規社員に採用されている人の割合は4割を超えてはいるが、57%が非正規雇用のままだ。保育園や学校などの煩雑な用事にとらわれ、正規社員のようなフルタイムの仕事はなかなかできない。結局のところ、正規社員と非正規社員の賃金の差が、母子家庭の貧困という形になって表れていると言っていいだろう。
 母親がどんなに優秀であっても、働く機会を平等に与えない。それが現在の日本企業の問題と言っていい。
➁ 公的支援の怠慢
 OECDの発表によると、GDPに占める教育機関への公的支援の割合は、33カ国中日本がワースト2位となっている。貧困にあえぐ子供に対する政府支援が十分でないことを物語る数字だ。最後のセーフティネットとも言われる「生活保護制度」も、過剰な財政赤字のせいで圧迫され、簡単には受け入れられない現実がある。
 母子世帯の生活保護制度による「生活扶助費」は、家族構成や地域によっても異なるが月額13万〜14万円程度。貧困層の1人親世帯の所得は年間122万円、月額10万円ちょっとよりもずっと多い。だったら、貧困層に属する1人親世帯は全員が生活保護を受けたほうがいいと考えがちだが、そう簡単には生活保護が受けられない仕組みになっている。
 子供食堂といったその場しのぎの方法では、いまや抜本的な解決にはなっていない。非正規社員の低所得にあえぐ母子家庭に対して、いますぐ公的な支援が必要になると考えていいだろう。
 母子世帯は、約123万8000世帯(「ひとり親家庭等の現状について」より)。そのうちの半数が貧困層とすれば62万世帯。母と子で少なくとも120万人が貧困と戦っている。
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2019年04月24日

貧困はもっと深刻?

 貧困率というデータは、厚生労働省の「国民生活基礎調査」として公表されている。日本の貧困率の最新値は15.6%(相対的貧困率、2015年、熊本県を除く、以下同)。 前回調査の2012年の16.1%に対してわずかだが改善している。
 一方、17歳以下の子供を対象とした「子どもの貧困率」は2015年で13.9%。こちらも前回2012年の16.3%よりも大きく改善している。それでも7人に1人の子供が貧困に陥っている状況だ。1人親世帯(子供がいる現役世代のうちの大人が1人の世帯)の貧困率も54.6%(2012年)から50.8%(2015年)と改善しているものの半数は超えている。
 日本の貧困率の高さは国際的に見ると、米国(16.8%、2015年、資料OECD、以下同)に次いでG7中ワースト2位。さらに、1人親世帯ではOECD加盟国35ヵ国中ワースト1位になっている。
 貧困率は、収入などから税金や社会保障費などを引いた「等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯員数の平方根で割った数値)」の中央値の半分未満しかない人の割合のこと。等価可処分所得(以下、可処分所得)の中央値は、年間245万円(2015年)。つまり年間122万円未満の可処分所得しかない世帯を相対的貧困層、その割合を貧困率というわけだ。
 年間122万円といえば、月額にして10万円ちょっと。アベノミクスが始まって以来、デフレ脱却はしていないと言いながらもスーパーの食料品などが以前に比べて高くなったことは事実だ。デフレが続いているとはいえ、月額10万円の生活がどんなに苦しいものかはよくわかる。
 ちなみに、貧困率を決める可処分所得の中央値は、ここ数年245万円程度で推移しているが、20年前の1997年には297万円だった。つまりこの20年の間に 可処分所得の中央値が52万円も下がっているということになる。52万円といえば、月額にして約4万3000円。日本が、この間「失われた20年」と呼ばれた経済低迷期であったことが、こんな数字からもわかる。
 実際に、同調査の「貯蓄」についてみると「貯蓄がない世帯」が全体で14.9%。母子世帯に限ってみると37.6%に増える。「生活が苦しい」と答えた人は全体で56.5%、母子世帯では実に82.7%が「生活が苦しい」と答えている
 OECD の「学習到達度調査 PISA 2015」では、勉強机や自室、参考書、コンピュータの保有率など13の学用品を国際比較したデータを出している。13個のうち保有数が5個に満たない生徒を「貧困」とみなす仕組みで、日本の貧困生徒の割合は5.2%。やはり、先進国(G7)の中では最も高いレベルに達している。
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2019年04月23日

所得格差よりはるかに大きい「資産格差」

 勤労者世帯の家計を所得や資産の大きい順に並べて、最初の5分の1、次の5分の1、というふうに5つのグループに分け、上位5分の1と下位5分の1の平均を比べてみる。
 所得の上位は86万円、下位の所得は30万円で、3倍弱の開きがあるが、年功序列賃金制であることを考えると、貧富の格差という感じは薄い。全世帯で見れば、超高額所得者がいたり、無職の高齢者がいたりして、所得格差は大きくなるが、それでも5倍以内ですなのだ。
 一方で、資産の上位グループ平均は5548万円(負債は230万円)、下位グループ平均は94万円(負債は621万円)と、こちらは大きな開きがある。ただ、これも貧富の差というより、高齢者と若者の差のほうが主因かもしれず、問題といえるか否かは慎重に判断したい。
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2019年04月22日

1世帯当たりの金融資産額は平均1820万円だが・・・

 家計調査は、資産と負債についても調査している。それによると、1世帯当たりの金融資産額は平均1820万円である。もっとも、読者の金融資産がこれ以下でも、焦る必要はない。
 第一に、所得格差と比べてはるかに金融資産額の格差は大きいため、「平均」と「普通」の差も大きい。ちなみに、「普通」の家計の金融資産は1064万円である。第二に、高齢者のほうが現役世代よりもはるかに多額の金融資産を持っているので、勤労者世帯に限ってみれば、「平均」が1299万円、「普通」が734万円である。
 高齢者というと「弱者」というイメージを持っている人が多いかもしれないが、少なくとも金融資産額については、高齢者のほうが圧倒的に多い。ちなみに高齢者無職世帯(全体の33%)に限ってみれば、1世帯当たりの貯蓄額は平均2363万円となっている。詐欺師が高齢者を狙うのは、判断能力が衰えているからだけではない。
 日本のサラリーマンは、年功序列賃金だから、若いときには給料が安く、しかも子育て費用等がかかる。50歳代になると、給料も高くなり、子育てを卒業する人も増え、老後に備えた貯蓄を本格化する時期である。そして、60歳頃には退職金も出る。最近は、長生きをする親が多いので、60歳を過ぎてから遺産を受け取る人も多い。
 退職金が出たときが金融資産保有額のピークのはずで、そこからは老後の貯蓄を取り崩しながら年金で足りないぶんを補って生活するのが普通なのだが、長生きしても大丈夫なように倹約して暮らす人が多いため、金融資産の減り方は緩やかである。
 老後の蓄えが少ししか減らない要因のもう1つは、60歳を過ぎてからも働く人が多いからかもしれない。サラリーマンも、定年後に再雇用されたり、新しい仕事を見つけたりして、元気な間は働く人が多い。自営業者は、定年がないので、それこそ元気な間は働き続ける人が多くいる。自営業者の場合は、退職金がなく、年金もサラリーマンに比べて少ないので、働かざるを得ない、という面もあるのだが…。
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2019年04月21日

経済的に平等な世界は「平等な貧しさ」を生む?

 格差は悪だ、というのは「常識」であるが、本当に格差は悪いことなのか。格差がまったくない世界は、素晴らしい世界なのか。実は、そうでもないのかもしれない。
 「全社員の給料を同じにする」と社長に言われたら、社員はサボりだすはずだ。条件が同じだったらどうかなのだが…。真面目に働いてもサボっても、給料が同じだからだ。「どんなに稼いでも、全額税金で召し上げて、全員に平等に配分する」と政府にいわれたら、国民はサボるはずだ。それでは、皆がサボって生産量が減るので、「皆が平等に貧しい世界」になってしまうはずだ。
 かつてソ連や中国が共産主義に基づいて平等な国をつくろうとしたことがあったが、うまくいかなかった。実際には共産化に向かう政策など採られたことは1度もないのだが…。しかし、今の米国のように、超大金持ちが富を独占しているような、格差が大きすぎる世界も問題ではないか。また、頑張って豊かになろうと思っても、それができないようならば、格差も問題になってくる。
 今の日本でいえば、「能力も意欲もあるのに、貧しくて学校教育が十分に受けられないので、給料の高い仕事に就けない」子供が増えている。これは大問題なのだ。
 「格差はあるが、誰でも頑張れば金持ちになれるのだから、みんな頑張れ」と言えるような世界が理想なのですが、なかなか難しい。現状ではほとんど無理である。
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2019年04月20日

「貧困率」が徐々に上昇している日本

 マスコミ報道などで、格差が拡大している、といわれる。それを裏付けるデータも発表されている。世帯を所得順に並べて、ちょうど真ん中の人の所得を中央値と呼ぶのだが、その半分以下しか所得がない人(貧困層)の比率(「相対的貧困率」と呼ぶ)を見ると、格差が少しずつ拡大していることがわかる。
 厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、1985年に12.0%であった相対的貧困率は、2015年には15.6%まで上昇している。「1億総中流」といわれ、平等な社会と見られてきた日本において、貧困率が高くなってきたことは、驚きを持って受けとめられた。
 高齢者の増加によって、所得の少ない人が増えていることが原因ならば、とくに問題はないかもしれない。しかし、若者の失業、ワーキング・プアの増加といったことが原因ならば、それは問題である。
 後者の要因は、バブル崩壊後の長期低迷期には深刻だったはずだが、アベノミクスによる景気回復で、失業が減り、ワーキング・プアの生活も少しずつマトモになりつつあるので、このまま改善が続くことを期待したいが、水ものだと考えておくほうがいい
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2019年04月18日

借金を減らすためにできること-債務整理

 生活苦から抜け出す目途がたたない位の借金を抱えている場合は、債務整理することをおすすめする。債務整理は合法的に借金を整理する制度で、手続きが認められれば借金を減額、または全額免除してもらうことができる。債務整理=破産と思いがちだが、自己破産以外にも任意整理、個人再生があり、状況に合わせて適切な制度を選択しよう。
 それぞれの制度の特徴は以下の通り。
 @ 任意整理
 任意整理は将来の利息を負けてもらう制度。原則元金のカットはないが、サラ金に毎月利息だけ払っているような状況であれば、任意整理をするだけでも随分楽になる。裁判所を介さずに手続できるので、家族にも内緒で手続することも可能。
 A 個人再生
 個人再生は借金をおよそ1/5程度まで減額可能で、額の大きい借金を抱えている人に適した制度。借金は大幅減額できるが、自己破産のようにマイホームなどの財産没収もないので、住宅を守りたい人には特におすすめだ。
 B自己破産
 自己破産は借金を全額免除する制度。借金免責の代わりに財産は没収されるが、資産価値20万円以下の財産や、99万円までの現金は手元に残すことが可能。自宅や車などを除く財産については換価してもさほど高額にはならないので、結果的にほとんど持っていかれるものはないだろう。また、身の回り品も手元に残せるので、住居が賃貸の場合は以前とさほど変わらない生活をすることも可能。
 現代の日本社会では病気や失業など、何らかのきっかけがあれば誰でも生活苦に陥る可能性がある。生活苦の原因が借金返済にあるときは、弁護士事務所、自治体の法律相談、法テラスを利用すればいい。それぞれの方の状況に合わせてベストの解決方法を提案してもらえる。債務整理は経済的な再建を目指す制度なので、生活苦から脱出するチャンスにできる。借金問題は一人で抱えず、専門家と一緒に解決していこう。
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2019年04月16日

生活苦から脱出するためにできること

 生活苦から脱出できることは、支出を減らすこと、収入を増やすこと、借金を減らすことのいずれかである。それぞれの具体的な方法を説明しよう。
 (1) 支出を減らすためにできること
 @ 収支の見直しをする
 生活苦だと思ったら、現在の生活費の収支の見直しに取り掛かろう。
 よくよく見直しをすると、意外に無駄な出費があることに気が付く。交際費や外食代など、削れる支出は極力減らし、お金があれば、少しでも貯蓄に回すように心がけよう。
 A 身の丈にあった暮らしをする
 生活が苦しいと言っている人の中には、意外に身の丈に合わない生活をしているケースも少なくない。
 特に都会型の新型貧困の場合は、お洒落な自分を演出するために、十分な収入がないのにも関わらず、SNSでマウンティングするために流行りのレストランや高級エステに行き、借金してでも友達と海外旅行に行ってしまうのだ。挙句の果てに生活苦になるのだが、本人たちはなかなかやめられない。自分を少しばかりよく見せていても、実際の家の中は火の車。借金をして返済に追われることにでもなれば、その後は転落していくばかり。思い当たる節がある場合は、今すぐできるだけ生活をシンプルにしよう。身の丈に合った生活=地味で不幸な生活…などということは絶対にない。どうしても人と比べてしまう場合は、SNSを止めるべきだ。
 B 生活の工夫をする
 生活の工夫でも支出を減らすことは可能。毎月支払をしている携帯代は適正価格だろうか。使えるクーポンや割引券はフル活用しているか。節約をするにも限度はあるので、生活の工夫をすることで支出を減らすことを考えよう。長く続けるためには、とにかくストレスを貯めずに、支出を減らす方法を考えることが大事だ。
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2019年04月15日

生活苦になる原因は?

 生活苦に陥る原因はさまざまである。いくら計画的に生活していても、生きている以上突発的なトラブルや出費はつきも。今の日本社会では以下のきっかけがあれば、いとも簡単に下流に転落してしまう。
 (1) リストラ
 リストラで収入が断たれ、次の仕事が見つからないときは最大のピンチ。特にそれまで正社員だったのに40代、50代になってクビを切られるケースは深刻だ。この年代になると、それまでと同等の待遇を求めて就職活動をしても上手く行かないケースが大半である。しかし、ローンの支払、子供の教育費は待ったなし。もうそうなると、仕事を選んでいる場合ではなく、待遇は落ちても雇ってくれるところで働くのみとなり、収入大幅ダウンも受け入れざるを得なくなる。
 (2) 非正規雇用
 20〜40代で生活苦を感じている人は、非正規雇用が圧倒的多数。正社員と同じだけ働いても賃金は低く、ボーナスや社会保障もない。
 (3) 病気
 病気も生活苦に転落する原因である。近年特に多いのはうつ病による休職だ。仕事のストレスでうつ病になり、そのまま退職、資産を使い果たしてしまうパターンである。十分な財産があっても働かずに療養生活をしていたら、あっという間にお金は底をつく。ましてや借金を抱えている状態であれば、たちまち生活苦だ。会社員であれば傷病手当、退職しても失業手当があり当面は糊口を凌げるが、自営業、アルバイトの場合は何の保障もないので、それも叶わなくなる。
(4) 離婚
 離婚もその後の生活に大きな影響を与える。特に専業主婦やパートで働いていた女性にとっては、生活苦への入り口となってしまうケースは少なくない。特に子供が小さく、周りに頼れる人がいない場合は、仕事と家庭を両立しなければならない。また、仕事を見つけるにも子育て中、年齢オーバー、キャリアがないという場合は、それなりの収入がある正社員の職を探すのは至難の業である。低賃金のパートやアルバイトしか見つからないことも多々あるだろう。もし、そこで病気や事故などで働けなくなった場合は、非常に辛い状況になる。
 (5) 介護
 親の介護も生活苦になる一因。親が認知症などを発症し、在宅介護をしなければならなくなった場合、他に看る人がいなければ、正社員&フルタイムの仕事を辞めなければならない。地元に戻って、仕事を見つけて働くも、非正規雇用やアルバイトで十分な収入が得られず、介護費用を捻出するために消費者金融に手を出す人は少なくない。また、介護が終わった後に再就職するにも、年齢の壁で思うようにいかない。介護は先が見えない分、費用の目途が立たないのが特徴。十分な蓄えがある人でも、介護をきっかけに貧困層になってしまうことはよくある話なのだ。
 (6) 浪費・ギャンブル
 浪費・ギャンブルも生活苦の一因である。しかし、自己破産するほど困っている人でも、浪費やギャンブルがきっかけというのは全体の10%で意外と割合は低い。浪費やギャンブルによる生活苦は自業自得にも思えるが、このタイプには依存症も含まれているので、一概に自己責任とまでは言えない。浪費、ギャンブルでお金を使い果たし、生活苦に陥る…全体の割合は少なくとも、日本全国にはそうしたきっかけで路頭に迷う家族は、今この瞬間にもたくさん存在する。
 (7) 借金返済
 借金返済は生活苦の直接的な原因。返済金額分は生活費がなくなるので、借金返済中はその分収入がないのと同じだ。借金返済は消費者金融だけでなく、住宅ローン、自動車ローン、奨学金なども含まれる。生活苦の原因はほかにもあるが、現在の状況から抜け出すにはどうしたら良いのか。
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2019年04月14日

一億総中流はもはや過去のもの

 かつての日本社会には「一億総中流」という言葉があり、少なくとも高度経済成長期からバブル崩壊までは、自分が頑張れば中流の生活はできると信じられていた。
 ここで言う中流とは、家や車を持ち、人並みに家族を養い子供の進学もさせられる程度の余裕がある生活である。しかし、その後のバブル崩壊、リーマンショックなどを経て、現在は中流家庭は大幅に減少。今の日本社会では高所得or低所得の二極化が進んでいる。
 厚生労働省の2014年の「国民生活基礎調査」によると、相対的貧困の状態にある人は全体の16.1%にのぼることが判明。実に日本人の6人に1人が低所得=下流という実態が浮かび上がった。所得の二極化は低所得者の増加という面が強く、現在「中流」でも、今の社会ではちょっとしたアクシデントをきっかけに誰もが下流に転落するリスクがあるということだ。
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2019年04月13日

日本にも貧困はあるの? 国民の6人に1人が貧困

 日本は世界でも豊かな国の1つ。貧困なんて存在しないと考える人も多い。しかしOECD(経済協力開発機構)によると、日本は先進国のうち、アメリカに次いで2番目に全体の相対的貧困率が高い国だ。
 国民の6人に1人、約2千万人が貧困ライン以下で生活しているといわれ、特に一人親(その多くはシングルマザー)の世帯の過半数が貧困という状態が長く続いている。このような国は先進国のなかでも日本以外にないという。
 貧しい人のための社会保障制度に生活保護がある。日本では高齢化に伴って、生活保護費の受給額は年々増えているが、生活保護制度の捕捉率(生活保護を受ける資格がある人のうち、利用している人の割合)は2〜3割といわれ、これは世界の国々と比べてもとても低い。
 そんななか、政府はさらに2018年度から生活保護費の引き下げた。都市部の一人暮らし、子供が多い家庭の引き下げ率が大きくなり、問題になっている。
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2019年04月12日

貧困を放っておくとどうなるのか?

 他人の貧困は自分と関係ないと思っていても、貧困が広がることで社会にはさまざまな悪影響が出る。
 例えばいろいろな要因で社会が不安定化すると、経済の生産性が低下し、それを補うための公的負担、個人の税金も増える。社会への不満をためた人によるテロの影響を受けるかもしれない。つまり、一生貧困とは無縁という人にとっても、何かしらの影響があるものである。
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2019年04月11日

貧困が生まれる主な理由

(1)想定外のアクシデント
 貧困は世界のどこにいても、病気やケガ、事故、失業、離婚などの要因によって誰にでも起こりうる。周りに家族や友人、コミュニティーなどの支えがないと立ち直ることが難しく、社会的に孤立して貧困に陥ってしまう人も多くいる。
 (2)世代間の連鎖
 貧困は次の世代に連鎖する。例えば日本においては、中学校・高校卒業者の約半数が非正規雇用で、正規雇用の3分の1の給料しかもらえない。年収が低いと子供の教育にもお金をかけづらい。このように、いったん陥るとなかなか自分の力だけでは抜け出すことができないのが貧困の現状だ。
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2019年04月10日

金持ちに都合のいい社会のルール

 今、世界のほとんどの国の経済は自由市場という仕組で動いている。個人や企業などがそれぞれの儲けを最大限に追求し、自由に競争し合うことで世界全体の富が増えれば、貧しい人まで恩恵が行き渡るという考え方だ。
 でも実際にはそうはなっていない。社会のルールづくりは一部の金持ちが影響力を行使することが多く、彼らにとって都合のよいルールは、なかなか変えることができない。
 一部の経済学者は「今の経済理論を見直す必要がある」と強く指摘している。でも、その仕組みに変わるものが何か、まだ明確な答えが見つかっていない。
 特に格差が広がるアメリカでは、2011年以降、「ウォール街(金融街)を占拠せよ」という抗議デモが起きている。一般市民が「私たちは99%」と主張し、富を独占する1%に対する不満が爆発している。日本をはじめ、世界の国々はアメリカと同じ制度を取り入れているので、格差の拡大は世界中に広がっていくはずだ。
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2019年04月09日

貧困は誰のせいか?

 世界銀行によると、1日あたりの生活費が1.9ドル(約210円)未満という貧困状態(絶対的貧困)の人々は、世界で約9億人もいるという。こうした人々へ支援の手を差し伸べることは緊急の課題だ。一方、先進国でもその国の平均的な水準に比べて所得が著しく低いという貧困(相対的貧困)が存在することを知っているだろうか。もちろん、日本も例外ではない。
 貧困は世界のどこにいても、いくつかの要因が重なれば誰にでも起こりうる。それなのに「貧しい人は努力が足りない」「能力がない」「運が悪かった」など、個人の問題として考えられてしまいがちだ。しかし、社会の構造に問題がある以上、個人の問題ではなく社会の問題として考えなければ、ますます格差は広がっていく一方なのだ。
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2019年04月08日

生活保護業務の外注が もたらすディストピア

 介護保険のケアマネは、利用者の生活の質を高めるためにサービスを充実させようとすると、「余計なことをするな」と行政に叱責されるかもしれない。下手に逆らえば、収入源を絶たれるかもしれない。ケアマネに行政の顔色をうかがわせるためには、その可能性を匂わせるだけで十分だ。
 「もしも生活保護業務が外部委託されたら、今の介護保険のケアマネと同じようになるのでしょうね。必要な支援でも『そこまでするな』と言われたら差し控え、生活保護からの脱却に数値目標を設けられたら、その通りに生活保護を辞退させて」
 すると、北九州市で2007年に発生した、生活保護を辞退させられた男性が「おにぎり食べたい」と書き残して餓死した事件と同様の問題が、日本全国で頻発するのかもしれない。しかし行政は、批判を恐れる必要はない。業者を入れ替えれば、「トカゲのしっぽ切り」ができる。そして業者の選択肢には事欠かない。行政は、最終的な責任を負わなくてよくなる。
 この、紛れもないディストピアを現実化させないためにどうすればよいだろうか。
 「行政の質を高めて、委託の余地をなくすことでしょう。繰り返しになりますが、今が良い状態というわけではなく、今だって良い状態ではないのですから。国がわざと、生活保護業務を質を上げにくいようにしている感じもあります。でも、一度変えたら、一度外部委託を許したら、大変なことになります」
 2017年12月5日、生活保護制度に関する国と地方の協議のとりまとめには、「ケースワーク業務等のあり方について」として、「稼働能力のある者に対する就労支援や不正受給対策などの業務を効率的・効果的に行う観点から、ケースワーク業務の重点化や外部委託のあり方」を議論するとある。生活保護業務の外部委託は、現在表舞台への出番を舞台袖で待ち構えている状態だ。Aさんの危惧は、空想でも妄想でもなく、大いに現実化する可能性を持っている。
 誰の生存権も保障されず、誰もが大きな不安を抱えて怯えるディストピア。近未来の日本をそんな世界にしたくないのなら、まずは生活保護法再改正に関心を向け続けるしかなさそうだ。
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2019年04月07日

民間生活困窮者自立支援法の将来 業者に蓄えられる能力が生活保護制度を破壊するか?

支援法が全面的に施行されて、5年あまりが経過した。相談支援を委託された業者が、非常に力を蓄えてきている。この流れが続くと、『行政よりも質が高い』という評価が定着するのではないか。
 2013年、最初の生活保護法改正と同時に成立した生活困窮者自立支援法は、経済的困窮を含む多様な困りごとを抱えた人々に対する相談支援を中心としている。相談支援機関は、行政が直営している場合と外部委託が半々程度だ。好評の相談支援機関は、必ずしも外部委託とは限らず、行政直営の場合もある。
 生活困窮者自立支援法に基く相談支援の対象は、現在のところは生活保護に至っていない人々だ。風俗業界で働いており収入の面では生活困窮状態ではない女性が、多重債務やDV被害など数多くの問題を抱え、苦しみながら子供を育てているのかもしれない。頭脳優秀で高い職業能力を持つものの、本人が気づいていない軽度精神障害のために、就労が不安定なのかもしれない。
 ともあれ、相談支援を委託されている業者には、数多くの困難ケースを含めて、経験が蓄積されてきている。3〜5年でローテーションによって現場を去る公務員よりも優秀なスタッフが、育つ可能性もあるだろう。すると生活保護業務の外部委託も、机上の空論ではなく現実の可能性となってくる。しかも人件費が削減される。住民としては、歓迎すべきことばかりに見える。しかし、そんなにいい形にはならないだろうと思う。
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2019年04月05日

財源と決定権は行政に責任と困難は民間に?

 福祉事務所の生活保護関連業務が外部委託された場合、業務のあり方はどのように変わるだろうか。
 おそらく、生活保護ケースワーカーと査察指導員(係長相当職)の業務を、委託された業者が行うことになり、その業者が責任主体となるだろう。介護保険事業所とケアマネのように、現場まわりが委託されるイメージだ。生活保護の申請を受けて決定する業務と保護費を支給する業務は、自治体が手放さないだろうと思う。
 決定権と財源を自分たちのもとに残せるのならば、手綱を握って方向性をコントロールできる。自治体側には、そういう判断も働くかもしれない。介護保険事業者と同様の、よりどりみどりの「生活保護事業者」から、自治体はどのような基準で委託先を選択するだろうか。
 まずは、『いかに安いか』ということが、最大の評価基準になるだろう。最大の狙いは、人件費の削減にあると考える。ただ、社会福祉士や精神保健福祉士などの資格を持っている人の比率は増えるだろう。現在でも、資格を持っている非常勤職員は多いからだ。
 現在、自治体に非常勤の身分で雇用されて福祉事務所で働く職員は、民間の生活保護事業者で、同様に不安定な身分で働くことになりそうだ。もちろん、待遇が改善される見込みは薄くなる。「生活保護を利用しながら生活保護事業所で働く」というスタイルが当たり前になるかもしれない。
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2019年04月04日

介護保険制度の発足で問題化したサービス劣化

 「福祉事務所の外注化」としてイメージするのは、介護保険だ。2000年に介護保険制度が施行される直前、「民間業者の自由競争によって、サービスの質は向上する」と喧伝されていた。参入しようとする業者も、公務員ヘルパーより良質のサービスを提供できることを強調していた。
 「介護保険、最初は悪くありませんでしたよね。『ウチは公務員ヘルパーより良い』と宣伝していた業者のサービスは、実際に良質でした」
 しかし、介護保険制度が発足して5年が経過すると、介護保険業者による報酬の不正請求などの問題が大きく報道されるようになった。2007年、厚生労働省より処分を受けた「コムスン」を記憶している方も多いだろう。数々の不正請求は、正当に業務を遂行していたのでは利益を上げにくい現実の現れでもある。
 民間に業務を委託する動機のうち最大のものは、やはり人件費削減だろう。『安いほどいい』ということで、土木・建設業者が介護保険事業に参入してきた。すると、業者数や従業者数が増えても、質は落ちるということになる。
 サービス供給者の量が増えて価格競争が行われたら、質も高くなると期待しがちだ。しかし、公共サービスが民間に委託される場合、必ずしもそうなるとは限らない。
 「公共サービスを民間に委託する場合、構造的に劣化しやすいんです。介護保険の歴史を見れば、そのことは明確です。すべての公共サービスで、その轍を踏まないようにする必要があるでしょう。
とはいえ、「福祉事務所は行政が直接」という現在の制度を良しとしているわけではない。
 「今が良いわけではないんです。今だって良くないんです。それが、もっと悪くなります。日本国民の生存権は、もっと守られなくなります」
 その状況に近いのは、映画『私は、ダニエル・ブレイク』だろう。病気のため働けなくなった真面目な大工が、「働ける」とされて制度の谷間に落ち、最後には命まで失う不条理な成り行きは、多くの人々の共感を呼んだ。
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2019年04月03日

生活保護法再改正によって福祉事務所の外注は可能か?

 国会に提出されていた生活保護法再改正をめぐる動きは、「モリ・カケ」問題、閣僚の失言や省庁幹部のスキャンダルに紛れた。しかし自民・公明・維新のみが出席した衆議院・厚生労働委員会で可決され、成立した。生活保護基準の引き下げも厚労大臣によって決定された。
 生活保護法再改正には、現在は不正受給の場合に限られている生活保護費からの天引き徴収を、役所側のミスによる不正ではない「受け取り過ぎ」にも拡大する内容が含まれている。これは、免責債権を“なし崩し”に非免責債権化することとイコールだ。このほか未来の危険な成り行きにつながりそうな改正内容が数多く含まれている。
 唯一明るい話題かもしれないのは、生活保護世帯の高校生が大学などに進学する場合の一時金の給付など、生活保護世帯からの大学進学支援が盛り込まれたことだ。一歩前進とみえるのだが、生活保護のもとでの大学進学が認められるわけではないだろう。生活保護世帯から大学に進学する子供たち生活の苛酷さが、ほんの少し緩和される程度かもしれない。
 そもそも、生活保護のもとでの大学進学を認めるために法改正を行う必要はない。厚労省の通知一通で済む。明るい話題というよりは、“目くらまし“に過ぎない。つまり、生活保護法改正はディストピア小説の筋書きのようにしか見えない。
 京都内で数多くの福祉の現場を経験してきたベテラン公務員・鈴木さん(58歳)は、「福祉事務所の外注化」という可能性を語る。ただ、今回の生活保護法再改正には含まれておらず、現在のところはAさんの豊かな想像力の産物、あるいは妄想かもしれない。もし実現すると、日本はどのような世界になるのだろうか。
 「福祉事務所の外注化」という言葉を聞いて、私が真っ先に思い浮かべたのは、多くの公立図書館で導入されている「指定管理」だ。東京都杉並区にも、区直営から指定管理へと移行した図書館が多数ある。
 図書館のカウンターにいてほしい欲しいのは、司書資格を持ち、プロ意識を持って業務にあたる図書館員たちだろう。もちろん、その図書館員の身分は安定していることが望ましいが、「指定管理業者のプロ図書館員か、区職員の素人図書館員か」の究極の選択を迫られれば、多くの人々は前者を選択するのではないだろうか。いずれにしても、業務の質が維持されていれば、利用者にとっては大きな問題はないと言えるのかもしれないのだが…。
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2019年04月02日

世代別の貧困者支援対策が重要

 世代によって必要な政策が分かれてくる。まず子供向けでは特に母子世帯向けの所得保障と就業支援が重要である。また貧困世帯児童向けの教育費用の支援も重要になる。若年・現役者向けには、非正規労働者への支援が重要である。非正規労働者は、国民年金や国民健康保険に加入するケースが多いが、これらの保険料は定額負担の性格が強く、低所得者ほど逆進性が高く、未納率の原因になっている。
したがって、当面必要な所得再分配政策は、非正規労働者にも正規労働者と同じ社会保険(厚生年金、健康保険)を適用し、将来の生活展望や医療アクセスを保障する、非正規労働者でも将来展望を持って家族を形成できるように、住宅手当、児童手当の加算、子供に対する奨学金を充実させることである。低所得高齢者には、基礎年金制度を補う最低所得保障制度の導入、医療・介護費の保険料、窓口負担の軽減が重要になる。
 さらに全世帯に共通して生活困窮者の生活支援も重要である。就職の失敗や離職に伴う長期無業となり、引きこもるもの、多重債務を抱えるものも増えているが、現在、これに対する支援政策は存在しない。これらの問題は、現金給付だけでは対応できないので、就労支援、生活相談、金銭管理支援などさまざまな生活支援政策を行う必要がある。2015年4月からスタートした生活困窮者支援制度は、このような多様な生活困窮者の生活を包括して支援するまったく新しい仕組みであり、その成否に大きな期待がかかっていたが、あまり効果がないようだ。
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2019年04月01日

一人親世帯の貧困率は50%で世界トップクラス

 ここでは世代別の貧困の課題を見てみよう。まず子供の格差・貧困であるが、これは大人の貧困率の上昇とともに上昇傾向にある。日本の子どもの貧困率は16%であり、先進国でも上位にある。また特に一人親世帯の貧困率は50%であり、先進国でもトップクラスになっている。こうした貧困が子供に与える影響については、教育水準、健康面で明らかにされている。
 教育面については、親の所得階層によって基礎科目の成績で差がでていることや、大学などのへ進学率に差がでていることにより、所得格差と学力、進学機会の格差の関係が明らかになっている。またさまざまなデータが子供の貧困と貧困の世代間連鎖を明らかにしている。たとえば、少年院における貧困世帯の出身者の率の高さ、生活保護受給世帯出身の子供が成人後、自らも生活保護受給になる確率が高いこと、養護施設出身の子供が成人後に生活保護を受ける割合も高いことなどが明らかにされている。
 次に若年者・現役世代の格差・貧困を見てみよう。90年代半ばから非正規雇用が拡大し、特に不本意ながら非正規労働者にならざるを得ないという若い世代の増加は、格差・貧困率の上昇、未婚率の上昇の重要な原因になっている。また学校、進学、就職・転職の失敗などをきっかけとする若い世代の引きこもりの増加が大きな問題になっている。
 高齢者の格差・貧困の主要因は、低い年金や無年金である。被用者は厚生年金、非被用者(自営業、無職、非正規労働者)は国民年金と加入する年金が分立している日本では、国民年金(基礎年金)のみの高齢者は850万人程度おり、その平均年金額 (月額) は5.5万円であり、生活扶助基準を大きく下回る。また2015年度から初めてスタートするマクロ経済スライドによって、基礎年金の実質水準は今後30年間にわたり約30%程度低下するとされている。今後の高齢者数の増大も考慮すると、膨大な貧困高齢者が発生する可能性もある。
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