2019年02月07日

単身世帯の増加と貧困リスク(2)

B 高齢期の単身世帯の貧困要因
 次に、高齢単身世帯の相対的貧困率が高い要因を考察していこう。高齢単身世帯の収入構成をみると、公的年金が70%を占めており、その比重が大きい。そこで、公的年金との関係から、高齢単身世帯が貧困に陥りやすい要因をみると、[1] 高齢単身世帯は2人以上世帯に比べて、「国民年金(基礎年金)」のみを受給しており、公的年金の二階建て部分である「厚生年金・共済年金」を受給しない人の比率が高いこと、[2] 厚生年金・共済年金を受給する単身世帯であっても、女性を中心に現役時代の賃金が低い人や、就労期間が短い人の比率が高いために公的年金の給付水準が低いこと、[3] 高齢単身世帯では、男性を中心に、現役時代に年金保険料を納めずに無年金者となった人の比率が高いこと、といった点があげられる。
 特に、国民年金(基礎年金)の受給額は、保険料を40年間支払って月額6.5万円(満額)である。保険料納付期間が40年間より短ければ、その分受給額は減額される。国民年金(基礎年金)のみに頼った生活は、貧困に陥るリスクが高い。
 それでは、どのような人々が、国民年金(基礎年金)のみを受給する高齢者となるのか。基本的には「自営業者・短時間労働者グループ」であり、現役時代に自営業や農業などに従事した人、パート労働に従事した人である。例えば、現役時代にパートとして働き、未婚のまま高齢期を迎えた1人暮らしの人や、夫婦で自営業を営み、配偶者と死別して1人暮らしになった人は、国民年金(基礎年金)のみの受給となる。
 実際、65歳以上の老齢年金受給者について、現役世代の主たる経歴と年金額の関連をみると、現役時代に「正社員中心」であれば、年収100万円未満の人の割合は、男性3.6%、女性17.4%と低い水準である。一方、現役時代に「無職の期間が中心であった人」「アルバイトや常勤パートなどの非正規労働の期間が中心であった人」「自営業が中心であった人」などで、年収100万円未満の人の割合が高い。
 なお、現役時代に本人が自営業やパートに従事していたために年金額が低くても、配偶者が被用者であれば、世帯全体では厚生年金を受け取れる。また、被用者であった配偶者と死別した場合には、遺族厚生年金を受け取れる可能性がある。このため、被用者を配偶者にもつ人は、一人暮らしになっても、貧困に陥りにくいと考えられる。
 B .単身世帯の増加への対応―働き続けられる社会に向けて
 では、単身世帯の貧困に対して、どのような対応策が必要か。以下では、貧困予防という側面から、[1] 働き続けられる環境整備、[2] パートタイム労働者への厚生年金の適用拡大、[3] 生活安定機能の社会化、について検討していく。
@ 働き続けられる環境の整備
 第一に、高齢期の貧困予防として、働き続けられる環境の整備である。就労意欲があって元気な高齢者であれば、働くことが貧困や社会的孤立の防止策になる。働けば収入を得られるので、安定した生活の基盤になる。また、働けば職場の仲間達と人間関係が生まれる。さらに、仕事を通じて社会との接点をもち、自己有用感を得やすい。
 特に、高齢期には公的年金が主たる収入源となる人が多い。しかし、今後は少子高齢化に伴って公的年金の給付水準の低下が予想される。給付水準の低下を補うためには、働く意欲があって働ける人は、出来る限り長く働き続け、公的年金の受給開始年齢を遅らせることによって割増された年金を受け取るといった対応が望まれる。
 具体的には、現行の公的年金制度は、65歳から年金受給を開始することを基本としている。しかし本人が希望すれば、受給開始を65歳以降に繰り下げることができ、その場合には割増年金を受給できる(繰り下げ受給)。例えば、68歳から受給を始めれば、65歳に受け取り始めた場合に比べて、25%増の年金額を死亡時まで受け取れる。もし70歳から受け取り始めれば、42%増の年金を受け取れる。
平均寿命も健康寿命も延びているのだから、その分長く働き続けるという選択肢があってよい。そして本当に働けなくなったときに十分な年金を受けられるように、働き続けられる環境の整備が求められる。なお、今後の繰下げ受給の検討課題として、「年金を受給するか、繰り下げるか」という二者択一ではなく、年金の一部を受給し、残りを繰り下げて割増年金に向けるという第三の選択肢があげられる。高齢期の多様な働き方に合った制度になれば、利用者も増えるであろう。
 一方、高齢者が就業できるように、企業には多様な働き方の整備が求められる。「元気な高齢者」といっても、フルタイムで働くことが難しい人や、そのような働き方を望まない人もいるためだ。例えば、週3日労働や短時間労働、フレックスタイム制など多様な働き方の選択肢の提供が必要だ。
 また、高年齢者雇用安定法の改正によって、65歳までの就業率は上昇したものの、定年前後の仕事内容や労働時間はあまり変わらないのに、賃金が大幅に下落するという課題がある。中長期的な視点から、職務を限定してその職務に応じた賃金を支給するジョブ型の働き方の選択肢を広げて、段階的に同一労働・同一賃金にしていく必要があろう。
 A パートタイム労働者への厚生年金の適用拡大
 第二に、パートタイム労働者への厚生年金の適用拡大である。
 自営業者や農業従事者、パートタイム労働者は厚生年金に加入できない。この背景には、自営業者や農業従事者には定年がなく、高齢期にも収入を得る手段をもつと考えられてきたことがあげられる。
 また、もう1つの背景として、所得の把握が難しいことがある。すなわち、厚生年金は所得比例で保険料が課せられ、所得比例で給付額が支払われるので、「所得」が基準になっている。しかし、自営業者や農業従事者は、所得を正確に把握することが難しい。このため、厚生年金は適用されず、定額保険料で定額給付の「国民年金(基礎年金)」に加入してきた。
 ところで、パートタイム労働者は、被用者なので所得の捕捉は正確に行なえる。また、パートタイム労働者には定年があり、高齢期に収入を得る手段は乏しい。つまり、パートタイム労働者は、正確な所得捕捉ができ、定年もあるのだから、厚生年金が適用されないのは不合理である。
 パートタイム労働者への厚生年金の適用拡大をしなければ、パートタイム労働者が高齢期を迎えて貧困に陥るリスクが高まる。特に、未婚の非正規労働者が増える中では、厚生年金の適用拡大を今から実施しなくてはいけない。
 もっとも、2016年10月に施行された年金機能強化法によって短時間労働者への厚生年金の適用拡大が始まった。しかし同法では、適用拡大の対象者に様々な条件が課せられたため、適用拡大の対象者は未だ少ない。短時間労働者への一層の厚生年金の適用拡大が必要である。
 B 「生活安定機能」の社会化
 第三に、非正規労働者が増加する中で、「生活安定機能」をいかに提供していくかという課題がある。日本型雇用システムでは、正規労働者は、長時間労働、配置転換、転勤などの「企業による強い拘束」を受ける一方で、年功賃金や社宅などの「生活安定機能」もセットで提供されてきた。
 しかし、こうした「生活安定機能」は正規労働者を対象としたもので、非正規労働者には適用されてこなかった。しかし、主たる生計者として非正規労働に従事する人々が男女を問わず増えている。特に非正規労働者にとって負担が重いのは、正規労働者であれば生活給により実質的にカバーされてきた教育費や住宅費である。非正規労働者が自助努力で克服できる水準を超えており、世帯形成を阻む要因となっている。
 この点、大陸ヨーロッパを中心に、大学の授業料の多くは公的に負担され、低い額に抑えられている。給付型の奨学金制度も、日本よりも充実している。また、低所得者層などに対して、生活保護制度とは別に家賃補助制度をもつ国が多い。こうした国々では、教育や住宅は、社会資本という捉え方がなされている。
 非正規労働者が増える中で、日本でも教育費や住宅費などについて、公的支援の拡充を検討すべきであろう。こうした支援は、経済的要因から結婚を躊躇していた人々に別の選択肢を与え、中間層を育てることにつながるであろう。
 単身世帯が増加する中では、上記で考察した内容のほかに、社会保障の機能強化や地域における支え合いの強化も重要と考えられる。 長らく日本では、正社員として働く夫と妻と子どもからなる世帯を「標準」として、様々な生活上のリスクに対応することができた。しかし、単身世帯は、少なくとも同居家族がいないので、世帯としてのリスクヘッジ機能が脆弱である。働き続けられる環境を整備するともに、公的にも、地域としても、「支え合う社会」の構築が求められているが…。


posted by GHQ/HOGO at 05:59| 埼玉 ☔| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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