2018年09月30日

社会保障制度で逆に貧しくなる唯一の国

社会保障制度で逆に貧しくなる唯一の国
 社会保障は本来、私たちの生命と尊厳を守るためにあるはずだ。このようなことを言えば、何を当たり前のことを、と言われるかもしれない。しかし、社会保障制度があることによって生活がより厳しくなり、困窮状態に追い込まれる国が世界に一つだけある。その国とは実は、私たちが住む国、日本である。
 このことを理解するために、OECD(経済協力開発機構)がまとめた、社会保障制度による貧困率の削減効果の各国比較がある。これは、「共稼ぎ世帯・単身世帯」と「両親のうち一人が就業する世帯」とに分けて、社会保障によってどの程度、貧困率を小さくできるかを提示したものである。これで、日本はOECD諸国中、社会保障制度の貧困削減効果が最も小さい国が日本だということが分かる。
 さらに、「共稼ぎ世帯・単身世帯」に注目すると、日本の社会保障制度がただ単に貧弱というだけではないことが分かる。日本だけが、「共稼ぎ世帯・単身世帯」において貧困削減効果がマイナスとなっている。数字がマイナスであるということはすなわち、これらの世帯では社会保障制度があることによってかえって貧困が拡大してしまっている、ということである。貧困はとりわけ単身世帯において顕著である以上、これは見過ごすことのできない事態である。社会保障制度が本来の目的に反する「逆機能」を持ってしまっているのである。生命がこれほど軽んじられる国も珍しい。
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2018年09月29日

貧困の拡大と社会の不安定化―自己責任社会を極めたアメリカの姿, 社会民主主義的福祉の効用

貧困に2種類ある。絶対的貧困と相対的貧困である。生死にかかわる絶対的貧困は途上国の問題と言える。他方、相対的貧困とは、たとえば「携帯電話は持っていても、新しい服など買ったことがない」というたぐい。つまり所得格差の問題であり、先進国の課題に違いない。他人事ではない。日本がそうだ。
現代の貧困は思わぬ形で若者、中年、女性にも襲いかかる。学用品を買えぬ子、暗黒企業で疲弊の社員、介護離職で親子共倒れ、風俗で稼ぐ女子大生等々。
「貧困クライシス」をそのままを描いて話題の映画がある。「わたしは、ダニエル・ブレイク」(I, Daniel Blake 英仏ベルギー合作、16年)だ。「ラ・ラ・ランド」や「君の名は。」の観客動員数とは比ぶべくもない。その意味では関心が非常に高いとも言えない。人間、万事に関心を払うことはできないし、払うべきでもない。だが、何に無関心かによって社会の質が決まる。これが社会の質であり、国民の質でもあるだろう。
 今のところ。所得格差の拡大、あるいは貧困層の増大が論じられるとき、最近は<自己責任><自業自得>といったフレーズが以前にも増して使われるようになった。以前は、といったのは、例えば、中東などの戦乱地域へフリーランスのカメラマンや、ジャーナリストが外務省の警告を聴かずに潜入、人質になったり、死亡する事件で、このフレーズが使われたことはあったが、貧困にまつわる話題で用いられることはなかったからだ。この変化をらどう考えればいいのか。
 ご承知のとおり、<中東の戦乱⇒ 欧州への難民流入⇒ 欧米における難民排斥とナショナリズムの高まり ⇔ 経済グローバリズムと貿易拡大による製造業の疲弊>これらが輻輳・混在する社会の不安定化。これが先進国を中心に広がっている。
 皮肉なことに、<アメリカンドリーム>とは<能力と努力次第で出世>の意味あいよりも、一皮むけば<何事も自己責任で>という精神を言い換えた峻厳なルールであったことに、人々は今さらのように気づいたわけだ。  国民皆保険を目指したオバマケアの全否定が良い例だ。
 しかし、である。かつては社会党や共産党の代名詞的であった社会福祉政策で生活保護をはじめ、所得分配の不均衡を人為的にならそうとする思想を嫌う集団である保守派を代表する自民党でさえ、政権を担う以上、貧困者増大がもたらす社会不安を回避するためには社会民主主義的手段を採用せざるをえない。 
 いわゆる『以て他山の石とすべし』で、日本は<自己責任>フレーズを推進すると社会全体がどうなるか、アメリカを反面教師にすべきだろう。
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2018年09月28日

生活保護 65歳以上が過半数 昨年度、受給83万世帯

 厚生労働省は、今年3月時点の全国の生活保護受給世帯数が164万1532世帯(概数)だったと発表した。これで2016年度の月平均は163万7183世帯になり、過去最高を更新した。65歳以上の高齢者世帯は83万7008世帯で全体の51%を占め、初めて半数を超え、高齢者の貧困が拡大を続けている。
 3月の受給者数は214万5415人(同)で、同年度の月平均は214万5842人となり2年連続で減少した。
 受給者数は、14年度の216万5895人をピークに減少傾向にある。一方で、受給世帯数は1993年度から24年連続で増えた。単身の高齢者世帯が増大する中、無年金・低年金や、核家族化で親族の援助が受けられない高齢者が、貧困に陥っていることが背景にあるとみられる。
 厚労省の15年時点の受給者調査によると、高齢者世帯の半数は無年金で、高齢者世帯が受給を終えた理由は「死亡」が最も多く61%。「社会保障給付金の増加」(3%)や「親類・縁者の引き取り」(2%)を大きく上回っている。
 今年3月値の高齢者以外の世帯の内訳は、傷病者・障害者世帯42万1792世帯(25.8%)▽働ける年代層を含む「その他世帯」26万901世帯(16.0%)▽母子世帯9万5489世帯(5.8%)−−だった。
 生活保護費を巡っては今年、食費や光熱費にあたる「生活扶助」の支給水準を5年に1度、見直す時期にあたっている。社会保障審議会の部会で、改定に向けた議論が始まり、単身高齢者世帯の消費動向を調べ、給付水準の参考にする方針を決めた。近年、親から子への「貧困の連鎖」が問題になっており、子育て世帯への加算も含めて年内に結論をまとめ、来年の通常国会に生活保護法の改正案を提出する。
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2018年09月26日

扶養義務が「義務」になったら…。援助をし続けることのリスク

 「扶養義務」の履行は決して高くはないことが予測できる。扶養能力というのは一概に図れるものではないし、家族関係にDVや虐待などの課題を抱え、孤立して生活保護を利用する人もいる。
 そして、難しいのは、多くの場合、家族や親族が頑張って援助をはじめたとして、なかなかやめられない、というのはある。
 生活保護利用者は大きく分けて、「高齢世帯」「傷病障害世帯」「母子世帯」「その他の世帯」にわけられるが、高齢世帯が約50%、傷病障害世帯は27〜28%、母子世帯は6〜7%、その他の世帯は約16%となっている(生活保護概数調査より)。
 この「その他世帯」は働ける年齢層の人たちだが、2009年の厚労省の調査では、世帯主の平均年齢は50代の後半とされていて、なかなか生活保護からの脱却が難しいのが実情である。
 特に高齢世帯などは、収入が少し家族や親族からの援助によって助かったとしても、本人たちの収入が劇的に増加することが見込めないため(労働市場に参入できにくいため)、結果的に、援助をしつづけなければならない、ということになる。
 たとえば、月に3万円援助をすると、年間で36万円。20年間で720万円に援助額の総額は達する。それだけの援助をするのは妥当なことだろうか。親孝行な子供だ、と思うのだろうか。
 その720万円を自分や自分の子供の進学に使ったり、マイホームを買うために使ったほうがいいのではないか。  また、援助を受けるほうも、申し訳ないという気持になったり、精神的なストレスを感じてしまうのではないか。
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2012年の「生活保護バッシング」と生活保護法の改正

 2012年にお笑い芸人の母親が生活保護を利用していたということでバッシングが起こった。 その後、2013年に生活保護法の改正(63年ぶりの改正)が行われ、「不正受給対策」などと同じく「扶養義務の強化」も大きな改正点となった。
 法改正された内容を要約すると、
 ・「扶養義務者」に対して申請があったことを、厚生労働省令で定める事情がない限りは福祉事務所が通知しなければならない。※厚生労働省令で定める事情とはDVや虐待など
 ・福祉事務所は「扶養義務者」に対して資産や収入の状況について報告を求めることができる。
 ・福祉事務所は「扶養義務者」の資産・収入等について官公署に資料の提供や報告を求めることができる。
 ・福祉事務所は、現在だけでなく過去(当時)の被保護者およびその「扶養義務者」の保護期間中の資産・収入等について、官公署に資料の提供や報告を求めることができる。
 ・官公署は上記の求めがあれば速やかに資料等の提供をおこなう
 というものである。
 見ていただければわかるように、「通知しなければならない」とか、「報告を求める」とか、「資料の提供をおこなう」という文言であって、強制的に徴収をするなどというものではない。
 これは、ある種、当たり前なのだが、生活保護利用者の家族も困窮していることもあり、家族の世帯の状況(子育て中とか介護をしているとか病気があるとか)も違いうので、一律に「あなたの収入はいくらですから○○円毎月送金してください」みたいに決められない、ということなのだ。
 実際にはケースバイケースで、家族が「可能な範囲」で援助をすることもあれば、それなりの収入があっても住宅ローンや子育て中などの理由を考えて、援助を求めていない場合もある。
 そして、お金の話は人間関係のこじれを生んでしまうこともあるので、各自治体でも家族関係を壊さないように、扶養義務の履行によって人間関係が断絶してしまわないように一定程度の配慮をしたうえで対応していると言えるかもしれない。もちろん、自治体によっては個別の事情を勘案せずに「扶養調査」をしてしまうこともあるのだ。
 ただ、残念ながら誰とは(どことは)言わないが、「家族で支えあう」を至上主義とする人達からすれば、この改正はぬるいというか、甘いと考えるというのはあるだろう。ちょうど、そういった主張をしてきた人たちの部会で今回の「調査」が発表されたというのもあながちつながりがないとは言えないだろう。
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2018年09月24日

日本の「相対的貧困率」が上昇する理由 年齢と男女別が要因に…

 経済協力開発機構(OECD)の調査で日本の相対的貧困率が上昇していることについて、国会で議論があった。
相対的貧困率とは、国民を所得順に並べ、その中央値の半分に満たない人の割合をいう。この場合の「所得」とは、年間の世帯所得を世帯構成による差を調整して計算した1人当たりの可処分所得である。つまり、相対的貧困率は、国民の所得格差を示す指標の1つといえる。
 「相対的貧困」というのは、所得が中位の半分以下の人の比率であるためで、社会全体の生活水準が上がっても、相対的貧困率は変わらない。
 これに対して「絶対的貧困」とは、国際連合が発展途上国の貧困指標として用いる「1日1ドル未満の所得」や「1日の栄養摂取量が1500キロカロリー未満」などの水準から貧困をとらえるものだ。
 相対的貧困率の推移について1985年から3年ごとに2012年までのデータを見ると、順に12.0、13.2、13.5、13.7、14.6、15.3、14.9、15.7、16.0、16.1と、03年に減少したのを除くと、一貫して上昇してきた。
 これは世界でも同じ傾向で、格差は広がってきているといえる。所得格差は、同一年齢・同一性における所得格差、年齢別所得格差、男女別所得格差によって左右される。日本の場合、年齢別所得格差と男女別所得格差が海外と比べて大きいといわれている。このため、相対的貧困率はOECD諸国の中でも高いほうになっているのだ。同一年齢・同一性における所得格差は、正規雇用か非正規雇用かの差が大きい。ただ、今後は、正規・非正規が均等扱いとなる方向なので、ゆっくりではあるが、徐々に格差はなくなっていくだろう。
 年齢別所得格差はかなり大きい。これはなかなか解消しないだろう。高齢化によって、この年齢別格差はより格差問題の大きなファクターになるだろう。
 男女別所得格差は、女性の社会進出が進むにつれて、なくなっていくはずだ。もっとも、日本は、先進国のなかでは、珍しく女性の労働力率が「M字カーブ」になっている。女性の労働力率は、20代半ばと50代前後という2つのピークを持ち、その間は労働力率が下がっているのだ。
 先進国でもかつては女性のM字カーブは見られたが、今では解消している。日本でも時間がかかるがM字カーブはなくなるだろう。そうなれば男女別所得格差も徐々に縮小するはずだ。
 労働市場に関する構造はなかなか変わりにくい。ただ、良好な経済環境を確保して、失業問題を解決すれば、格差問題もおのずと解決していくものもある。正規と非正規、男女の均等扱いは当然であるので、政策的な関与も必要であろう。
 ただし、万人が納得する完全な格差解消はあり得ない。価値観が大きく入り込む分野なので適切な政治プロセスで解決すべきところだ。
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2018年09月22日

紋切型の「自己責任論」

 格差拡大の事実を認めるか否か。格差拡大を是正すべきと考えるか否か。貧困を自己責任として切り捨てるか否か。これらは、現代日本における階級対立の主要な争点である。
 一方に、格差拡大は事実であり、これは是正される必要があり、貧困は自己責任ではなく社会の問題だと考える立場がある。これは下層階級の、そして下層階級の人々に共感と同情を抱く人々の政治的立場の表明である。
 反対に、格差拡大と深刻ではなく、是正の必要はなく、貧困は自己責任だと切り捨てる立場がある。これは特権階級の人々の、そして格差拡大を放置し拡大させてきた政府や企業を擁護する人々の政治的立場の表明にほかならない。
 さらに重要な争点を1つ付け加えよう。それは、現代の日本社会が階級社会であることを認めるか否かである。
 2015年に全国の1万6000人、2016年に首都圏に住む6000人を対象に行なった調査の結果にもとづいて、現代日本の危機的な状況について論じた『日本の新・階級社会』(講談社現代新書)にある、今日の日本は「格差社会」などという生ぬるい言葉で表現すべき段階にはない。
 明らかな「階級社会」、しかも900万人にも及ぶ新しい下層階級(アンダークラス)を底辺におき、これに犠牲を強いる、新しい階級社会だと考えるべきである。
 かつてフランスの社会学者ピエール・ブルデューは、「階級が存在するかしないかということは、政治闘争の主要な争点の1つである」と指摘した。現実には格差や貧困があるに「日本には階級がない」と考えるのは、格差と貧困の深刻さから目を背けることであり、人々の間に対立関係はないと言い張ることにほかならない。
 今日の日本社会が、アンダークラスに苛烈な境遇を押しつける階級社会だという現実を認めることこそが、貧困のない、より平等な実現するための一歩になるだろう。
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2018年09月21日

「一億総中流」は幻想!?

 高度経済成長が終わって以降の日本において、格差をめぐる階級間の対立で勝利を収め続けてきたのは特権階級の側だった。そしてこの間、日本政府が格差は深刻ではないと言い続けてきたということは、日本政府が特権階級の代弁者であり続けてきたことの、何よりの証拠である。
 1970年代の終わりには、「一億総中流」という言説が流布し、あたかも格差や貧困の問題は日本からなくなったかのような幻想が振りまかれた。たしかに当時、現在に比べれば日本の格差は小さかったが、中小零細企業や零細な農家には依然として深刻な貧困があった。
 そしてまもなく、1980年代に入ったころには格差は拡大し始めていた。しかし「一億総中流」という幻想のもと、格差拡大は放置され続けた。そればかりか、消費税の導入、高所得層の所得説率の引き下げなど、格差拡大を助長する税制の改変が行なわれた。
 1990年代に入ると、一部の経済学者や社会学者が、格差は拡大していると指摘し始めた。しかし、これらはほとんど無視され、政府は逆に格差拡大を積極的に促進するような政策をとり始めた。財界人を中心とするメンバーで構成された経済戦略会議は、日本の社会は、「行き過ぎた平等社会」だと根拠もなく断じ、富裕層減税と低所得者の増税を提言し、これが実行に移された。
 反面、非正規労働者の低賃金と不安定な身分は放置された。そのうえ規制緩和によって、非正規労働者は激増し、巨大なアンダークラスの出現へと至るのである。
 2009年から3年だけ続いた民主党政権が、遅まきながら格差が拡大し、貧困率が上昇しているという事実を認め、対策を取る(実際は何もしなかった)と明言したこともあり、こうした事実自体は、広く認められるようになった。
 代わって格差を正当化するイデオロギーとして流布し始めたのが自己責任論、つまり収入が低いのは自己責任だから放っておけばよいとする主張である。今のところ自己責任論の影響力は強く、これが格差縮小に向けた合意形成の最大の障害になっている。
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「格差」は隠蔽されたか?

 格差拡大が話題になり始めたころ、政府、財界、そして一部のマスコミは、躍起になって格差拡大の事実を否定しようとした。最初の段階では、都合のいい統計データを示しながら、「格差は拡大していない」と言い張った。いくつもの指標が格差拡大を示していることを否定できなくなると、「格差拡大は見せかけだ」と言いだした。
 OECDが、日本の貧困率は先進国のなかで米国に次いで高いと発表すると、「この貧困率の計算方法は日本にはあてはまらない」などと言い張った。さらに統計的な証拠が集まって、格差が実質的にも拡大していることが否定できなくなると、「格差があるのは当然だ」と開き直った。
 こうして政府が、格差拡大と貧困の増大という事実から目を背け、開き直り、対策を怠っているうちに、日本社会は取り返しがつかないほどに変質してしまった。その結果が、新しい階級社会と巨大な下層階級(アンダークラス=パート主婦を除く非正規労働者たち)の出現である。ここから明らかなように、格差は政治的な争点である。しかも、それは階級的な利害と密接な関係にある。
 人には日本国憲法で認められた生存権と平等権がある。だから生存権を脅かすような貧困の存在が明らかになれば、政府は対策を取らなければならない。平等権が侵されるほどに格差が拡大していることが明らかになれば、やはり政府は対策を取らなければならない。しかしそのためには、富を特権階級から下層階級へと移転させなければならない。特権階級の利害は脅かされることになる。
 だから特権階級は、貧困の存在も、また格差拡大の事実も認めたくない。特権階級は、自分たちが恵まれた立場にあることを隠すため、いまの社会では格差が小さいと主張する。そうでなくても、格差は許容範囲であり、縮小させる必要はないと主張する。このように貧困が存在するか否か、格差は拡大しているか否かといった、社会に対する認識自体が、階級間の対立の争点なのである。
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2018年09月19日

世代別の貧困者支援対策が重要

 世代によって必要な政策が分かれてくる。まず子供向けでは特に母子世帯向けの所得保障と就業支援が重要である。また貧困世帯児童向けの教育費用の支援も重要になる。若年・現役者向けには、非正規労働者への支援が重要である。非正規労働者は、国民年金や国民健康保険に加入するケースが多いが、これらの保険料は定額負担の性格が強く、低所得者ほど逆進性が高く、未納率の原因になっている。
 したがって、当面必要な所得再分配政策は、非正規労働者にも正規労働者と同じ社会保険(厚生年金、健康保険)を適用し、将来の生活展望や医療アクセスを保障する、非正規労働者でも将来展望を持って家族を形成できるように、住宅手当、児童手当の加算、子供に対する奨学金を充実させることである。低所得高齢者には、基礎年金制度を補う最低所得保障制度の導入、医療・介護費の保険料、窓口負担の軽減が重要になる。
 さらに全世帯に共通して生活困窮者の生活支援も重要である。就職の失敗や離職に伴う長期無業となり、引きこもる者、多重債務を抱える者も増えているが、現在、これに対する支援政策は存在しない。これらの問題は、現金給付だけでは対応できないので、就労支援、生活相談、金銭管理支援などさまざまな生活支援政策を行う必要がある。2015年4月からスタートした生活困窮者支援制度は、このような多様な生活困窮者の生活を包括して支援する新しい仕組みだが、その効果は現在まであまり出ていない。
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2018年09月18日

一人親世帯の貧困率は50%で世界トップクラス

 全世帯の格差・貧困率の動向を見てきたが、ここでは世代別の貧困の課題を見てみよう。まず子どもの格差・貧困であるが、これは大人の貧困率の上昇とともに上昇傾向にある。日本の子どもの貧困率は16%であり、先進国でも上位にある。また特に一人親世帯の貧困率は50%であり、先進国でもトップクラスになっている。
こうした貧困が子どもに与える影響については、教育水準、健康面で明らかにされている。教育面については、親の所得階層によって基礎科目の成績で差がでていることや、大学などのへ進学率に差がでていることにより、所得格差と学力、進学機会の格差の関係が明らかになっている。またさまざまなデータが子供の貧困と貧困の世代間連鎖を明らかにしている。たとえば、少年院における貧困世帯の出身者の率の高さ、生活保護受給世帯出身の子供が成人後、自らも生活保護受給になる確率が高いこと、養護施設出身の子供が成人後に生活保護を受ける割合も高いことなどが明らかにされている。
 次に90年代半ばから非正規雇用が拡大し、特に不本意ながら非正規労働者にならざるを得ないという若い世代の増加は、格差・貧困率の上昇、未婚率の上昇の重要な原因になっている。また学校、進学、就職・転職の失敗などをきっかけとする若い世代の引きこもりの増加が大きな問題になっている。
 高齢者の格差・貧困の主要因は、低い年金や無年金である。被用者は厚生年金、非被用者(自営業、無職、非正規労働者)は国民年金と加入する年金が分立している日本では、国民年金(基礎年金)のみの高齢者は850万人程度おり、その平均年金額 (月額) は5.5万円であり、生活扶助基準を大きく下回る。また2015年度から初めてスタートしたマクロ経済スライドによって、基礎年金の実質水準は今後30年間にわたり約30%程度低下する。今後の高齢者数の増大も考慮すると、膨大な貧困高齢者が発生することになるはずだ。
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2018年09月16日

相対貧困率と生活扶助基準ライン

 所得分布が格差の大きさを示すのとは別に、貧困の程度を示すものとしては相対貧困率がある。正確には相対貧困水準とは「世帯人数を調整したうえでの中位の所得の半分の所得を相対貧困ライン」と設定し、その相対貧困ライン以下の人の割合と定義される。もう一つの貧困ラインとしては、生活保護制度の定める最低所得水準(以下、生活扶助基準の貧困ラインとする)によるものがある。生活扶助基準からみた貧困ラインは、世帯を構成する家族の年齢や居住地によって異なるので、単に人数調整した相対貧困ラインとは単純比較できない。
 しかし、相対貧困ラインからみて貧困世帯とみなされる低所得世帯と生活扶助基準ラインからみて貧困世帯とみなされる世帯は86%重なっていることが確認できている(※1)。従って、相対貧困率の動向は、生活扶助基準以下の貧困率と類似した動きを示すことになる。図2はその相対貧困率の動向を見たものであるが、全体として貧困率は上昇傾向にあり、特に若年世代の貧困率が大きく上昇していることがわかる。一般に、貧困率の上昇は、収入が少ない高齢者数が増加したためであるという指摘もあるが、決して人口要因だけではないことがわかる。
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2018年09月15日

所得分布からみる格差の拡大―所得上位5%の占有率が急上昇

 日本国内での格差・貧困の動向を見るためにはいくつかの指標を組み合わせてみる必要がある。
 まず所得の中位値と平均値である。厚生労働省の2013年「国民生活基礎調査」によると、2012年の平均世帯所得は537万円であるが、中位の世帯所得(所得を低いものから高いものへと順に並べて2等分する境界値)は432万円である。中位値より平均の方がかなり高めにでる原因は、高所得世帯の所得が平均を押し上げているからである。そこで中位値の世帯所得の動向に着目すると、世帯人数が減少していることや人口の高齢化が進んだことをも考慮しないといけないものの、1995年は550万円、2000年は500万円、2005年は458万円、2012年432万円というように、約20年間で中位値は120万円程度低下している。
 次に2012年の所得分布をでは、全世帯の下位から約2割(19・4%)は世帯収入「0から200万円」にある。中位の世帯所得の半分は216万円であり、これは後ほど触れる相対貧困ラインにも相当するが、それ以下の世帯が20%程度存在することになる。他方、上位から5% (4・8%)が世帯所得「1300万円以上」、同じく上位10%(11・3%)が世帯所得「1000万円以上」の高所得世帯層となっている。したがって、大ざっぱにいうと日本の世帯所得分布は1000万円以上で上位10%、201万円から999万円で中間層70%、200万円以下の低所得者層20%から構成されている。
 次に高所得層への集中を明確にするためには、高所得層への占有率に注目する必要がある。OECDのデータベースでは、各国の所得上位層が全所得(課税前)の何パーセントを占有しているかを公表している。上位5%の所得層の占有率を見ると、日本は90年代に入って急速に上昇しており、米国の約35%、英国の約30%には及ばないものの、25%に接近している。なお、フランスは21%、スウェーデンは17%であり、決して日本が格差や所得の集中度が低い国ではないことがわかる。
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2018年09月13日

国際比較から見た格差の現状―低所得層の大幅所得低下は日本だけ

 トリクルダウン政策は、日本でも2000年代前半に雇用規制緩和などを進めた小泉純一郎政権、それに続く(第1次)安倍晋三内閣でも「上げ潮政策」として採用されているが、それが低所得世帯にどのような結果になったかは十分検証されていない。国際的にも過去20年から30年間で、先進国における格差がどのような状況になっているかは重要なテーマになっている。この点について経済開発協力機構(OECD)の “Divided We Stand: Why Inequality Keeps Rising” (2011年) は、1980年代半ばから2000年代後半の期間における所得上位10%の階層と下位10%の階層の実質所得の変化率について、「世帯規模」と「物価水準」を調整した上で、国別に動向を明らかにしている。
 フランスのように下位の所得の成長率が上位の成長率よりも高い国は例外であり、多くの国で、高所得者の所得の成長率は低所得者の成長率よりもはるかに高く、格差は拡大していることが確認できる。それでも低所得者の実質所得の成長率はわずかでもプラス成長であるが、日本のみ低所得者層の所得は実質所得が年平均マイナス0.5%になっている。日本では、低所得層の所得がより大きく低下していることが確認されたことになる。
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2018年09月10日

成長か分配か―揺れ動く国民の評価

 生活保護受給者数は200万人あまりとなっており、戦後最多の状況が続いている。生活保護を受給している世帯の約4割が高齢者世帯であるが、増加率に着目すると若い世代の生活保護受給者も増加している。このように貧困問題はより深刻になっているものの、所得再分配か経済成長のいずれを優先すべきなのかという問題は、常に経済政策で大きな論争になり、国民の評価もそのときの社会経済状況で大きく揺れ動いてきた。
 2007年から08年のように生活保護を打ち切られて餓死した高齢者の事件や、リーマンショック後の解雇で仕事と住居を同時に失った人々が日比谷公園に集まり、派遣村が開設されたことなどが報道されると貧困・格差に関心が集まり、再分配政策を支持するようになる。しかし、最近のように生活保護受給者が増加し、不正受給(あまり多くはないが…)などが報道されるようになると、再分配政策への支持は小さくなる。再分配政策を重視した民主党政権とは異なり、自民・公明連立政権は、経済成長重視を鮮明にしている。
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2018年09月08日

富裕層は社会の構成員として応分の負担を!

 学生の本分である勉強に専念する環境を作るためには、返済の必要がない給付型奨学金の拡充が欠かせない。財源は富裕層に対する課税が考えられる。奨学金問題に詳しい中京大学の大内裕和教授によると、給与所得は累進の最大税率が45%、株や債券などの金融所得が20%であり、この税率を同じ累進で最大45%にするか、あわせて総合課税すれば相当な財源ができるという。おおむねその意見に賛成できるのではないか。
 富裕層が富裕な状況でいられるのは、社会があって労働者がいるからなのだ。努力をした者が多くを得られることは否定しないが、その努力ができる環境も社会が与えたものなのである。その社会が危機に瀕しているときには、社会の構成員として責任を応分に求めていくことは当然ではないか。
 教育に社会的な投資がなされれば、長期的には納税者として国を支える存在になる。人が資源と考え、積極的に先行投資をしている北欧のほか、英国でも不平等研究の大家であるアンソニー・アトキンソンが『21世紀の不平等』の中で「すべての家庭に児童手当を支払うべき」と提言するなど、海外ではそうした考え方が広がっているが、日本では議論がなされることはほとんどない。
 貧困層が厚くなればなるほど、税金や社会保障費は膨らむ一方なのだ。その状態が長く続けば、健康にも影響し医療費も増える。放置すると上の世代にも下の世代にも影響を及ぼすことになる。貧困は人ごとではないのだ。それを食い止めるためには日本全体で危機感を共有して議論を深め、早急に手を打つ必要があはずだ。
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2018年09月06日

貧困対策として空き家を積極活用せよ!

 海外では公営住宅や低家賃の住宅があり、家賃補助制度も整備されている。一方、日本では公営住宅が圧倒的に足りない。公営住宅の応募倍率は全国平均で約7倍、東京都は約4倍と、生活困窮者であってもなかなか入居できない。そこで注目しているのは空き家の活用だ。総務省「住宅・土地統計調査」によると、空き家は全国で約850万戸、総住宅に占める割合は約14%に上る。政府は、今後10年の住宅政策の指針として「住生活基本計画(全国計画)」(計画期間:2016〜25年度)を決定しており、その中で「空き家を含めた民間賃貸住宅を活用して住宅セーフティネット機能を強化」という文言が盛り込まれた。ただしその具体策については明記されていない。
 住生活基本計画のパブリックコメント(意見募集)では、家賃補助制度を求める声もあった。しかし、国土交通省は「家賃補助制度については、民間家賃への影響、財政負担などに課題があり、慎重な検討が必要である」と回答している。
 住宅は最大の福祉制度であると筆者は考えている。一歩ずつでも少しずつでも、社会投資としての住宅整備をしていく必要がある。
 生活水準を上げるために貢献するはずの「教育」も、貧困の原因となりつつある。2012年度のデータでは大学生の52.5%が奨学金を利用している。7割以上が有利子貸与だ。2012年時点で日本学生支援機構の奨学金返還の延滞者は33万人超に上る。
 教育を受けるために高い学費を払い、高額の奨学金を借りる若者が多い。だがその教育に見合った仕事に就けるかどうかは不透明だ。そして返済は何年も続く。
 奨学金を借りる背景にあるのは、学生の親世代の所得減少だ。国税庁の「民間給与実態統計調査結果」によると、民間企業の労働者の平均年収はピークだった1997年の467万円から2013年には414万円に下がった。親からの仕送りも減少しており、奨学金を借りたり、アルバイトをしたりして、学費や生活費を工面しなければならない。
 そうした中で台頭してきているのがブラックバイトである。バイトを辞められない弱い立場である学生に対し、休憩なしの長時間労働やクリスマスケーキやおでん、衣服、化粧品などの自社商品を自腹で購入させるといった無茶な労働を強いる企業が少なからずある。
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2018年09月04日

貧困層に重くのしかかる家賃負担

「家賃を払うと、生活資金が手元に残らない。いったいどうすればいいのか……」
 東京都内に暮らすAさん(32)は頭を抱えている。Aさんは現在、非正規労働者として働く。月の収入は手取り約16万円。家賃7万円のアパートに妻(30)と子供(3)の3人で暮らしている。妻は子育てに追われ、働く時間が取れない。毎月の収支は赤字で、足りない分は貯金を切り崩しながら生活をしている。ただ貯金の残高は約60万円と決して多くはなく、このままではゼロになるのも時間の問題だ。
 日本の相対的貧困率は16%以上で、いまや6人に1人が貧困状態にあり、誰もが陥る可能性がある。トマ・ピケティの『21世紀の資本』(みすず書房)やアンソニー・B・アトキンソンの『21世紀の不平等』(東洋経済新報社)に代表されるように、世界でも格差や貧困に対する研究が進み、新自由主義から分配重視へトレンドが移っている。
 生活が困窮する大きな原因の1つが、冒頭のエピソードのような「住宅」の問題だ。家賃の支払で追い詰められているケースが非常に多い。データを見ても、生活困窮者にとって家賃の負担は大きな重荷になっている。たとえば、2014年12月にビッグイシュー基金の住宅政策提案・検討委員会が実施した調査「若者の住宅問題」(首都圏と関西圏に住む20〜39歳、未婚、200万円未満の個人を対象)によると、手取月収から住宅費を差し引いた金額であるアフター・ハウジング・インカムがマイナスになる人が27.8%も存在する。プラスのグループにおいても「0〜5万円未満」が17.0%、「5万〜10万円」が32.9%と、低水準の人たちが多い。
 若者に関していえば、親と同居する理由で約半数を占めるのは、「家賃が負担できないから」であった。低所得であればあるほど、親と同居している。そして所得が低く、親と同居しているほど結婚の予定がないと回答しており、少子化につながっている可能性もある。
 生活困窮者にとって住む家があるというのは、大きなよりどころとなっている。家を失ったり、家賃を支払えなくなったりすると、精神的に追い詰められてうつになる場合が多い。生活困窮者の住宅対策は非常に重要だ。ところが、現状の制度はあまりに手薄と言わざるをえない。生活保護を受ける場合に家賃として支給される住宅扶助や、昨年4月にスタートした生活困窮者自立支援法に定められた離職によって家を失う可能性がある場合の住宅確保給付金(有期)くらい。貧困に転落した人に対する救貧制度のみで、貧困転落を回避する防貧制度はないのが実情である。
 収入に占める住居費を1〜2割に抑えられると生活に少し余裕が生まれ、より多くのおカネを教育費や老後資金に回すことができる。ではどうすればいいのか。
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2018年09月03日

本当に怖いのは東京オリンピック閉幕後だ


 2020年8月開催の東京オリンピックを前に、日本は建設業を中心に好景気が続いている。また、12年に始まった景気拡大は、高度成長期の「いざなぎ景気」を超えたとも言われている。一方で、東京オリンピック閉幕後の雇用悪化や景気落ち込みが今から話題になっている。これはオリンピック特需が終わるからだが、さらに懸念されるのは、21年までに実施される各種財政維持のための引き締め対策である。
生活保護基準の引き下げを含めて、今後、次の4つが実施される。
(1)年金改革法によるキャリーオーバー制の導入(2018年4月〜)
 16年12月に成立した年金改革法では、年金給付の水準を調整する「マクロ経済スライド」方式の見直しが決まっている。これまでは、賃金や物価の上昇が小さく、スライド調整率を適用すると前年度の年金額を下回ってしまう場合、下回った分のスライド調整率は適用されず、年金額が下がらないように調整されてきた。
 しかし、18年4月以降は、前年度の年金額を下回る分のスライド調整率は、これまで通り適用はされないが、持ち越されることになり、賃金や物価が大きく上昇したときに、その年のスライド調整率に加えて改定率を決めるキャリーオーバー制が導入されてしまった。これによって、景気が大きく上昇しても年金支給額はこれまでのようには上がらず、低く抑えられることになる。
(2)生活保護基準を最大で5%引き下げ(2018年10月〜)
 生活保護基準の引き下げは、すぐに実施されるわけではない。18年10月から3年をかけて段階的に行われ、最終的に20年に最大で5%が引き下げられる。生活保護世帯の約67%が減額される想定だが、オリンピックの年が最も厳しくなる。
(3)消費税率が10%に(2019年10月〜)
 19年10月に消費税率が10%に引き上げられる。 これによって約5兆円の増収が見込まれるが、このうち約2兆円は国の借金返済(借金などないのだが…)に使われ、2兆円は教育無償化などに、1兆円が社会保障費に使われるとされている。この増税に対して、自由民主党と公明党以外は反対または凍結を主張しており、また延期するのではないかとの声も聞こえてくる。
 これまでは消費税率が上がるとき、消費に大きな影響が出ないように生活保護基準も引き上げるような対応もされてきたが、今回は低所得者対策として食品などの軽減税率の導入も検討されている。しかし、消費税は低所得者ほど所得に占める生活必需品の割合が高くなるので税負担が重くなるという、消費税の逆進性が指摘されている。
(4)年金改革法による「賃金・物価スライド」の新ルール(2021年4月〜)
 16年12月の年金改革法では、もう1つ、毎年行われる年金額の改定ルールが変更になってしまった。これまでは、物価が上がったのに賃金が下がった場合は年金額は据え置き、賃金と物価の両方が下がった場合は物価の下げ幅に合わせて年金額が下がったが、21年4月以降は、すべて賃金の下げ幅に合わせて引き下げられる。つまり物価が上がっても賃金が下がった場合は賃金の下げ幅に合わせて下がり、物価よりも賃金の下落が大きい場合も賃金の下げ幅に合わせて年金支給額は下がる。これによって現役世代の年金はある程度確保されるが、年金受給者にとっては支給額の減額になる。
 このように、20年東京オリンピック景気の盛り上がりの影で実施されるのは、財政を維持しつつ、少子高齢化でかさむ社会保障費を抑制するための政策である。続く25年には、団塊の世代が75歳以上になり、35年には国民の3人に1人が65歳以上の高齢者になる。社会保障費は雪だるま式に増えていくとはいえ、どこまで削減を続けていくのだろうか。
 すでに高齢化率30~40%という地域も少なくなく、こうしたところでは年金と生活保護支給が経済の資本になっている。その支給額を減らすということは、地方経済にとっても大きな打撃だ。
 17年にOECDが発表した調査結果では、日本の貧困率は12年の16.1%から15年には15.6%と少し下がった。しかし、貧困ラインは122万円のまま変わらず、貧困率もOECD(経済協力開発機構)加盟国の平均11.4%よりも高いままだ。貧困率は、その対策に予算をかけない限り、決して下がることはない。具体的には、所得再分配政策、つまり所得税などの税金を上げてその分を再分配しない限り、貧困率は下がらないだ。
 しかし、政府は大きな反発を恐れて税金を上げられない。財政危機(本当に祖かはわからないのだが…)で配分する予算がないので、いまある予算のどこかを削るしかないとする。どこを削るか、常に足の引っ張り合いである。そうなると社会保障費を削ることになるのではないか。今回の生活保護基準引き下げは貧困率を下げるどころか逆行している。これがさらなる悪循環を生み、格差拡大を加速する契機になることが心配だ。もはや「一億総貧困」が大げさなあおりではないところまできている。
 とはいえ、以前に比べて、生活保護受給者に対するバッシングが減ってきているのは救いであり希望かもしれない。社会保障費がどんどん削られてきて、限界が近づいているからだろうか政府は世論の方向性を見ている。今回も最初に厚生労働省が提示した13%引き下げが5%に下位修正された。これをさらに4%や3%に下げていくことは不可能ではないはずだ。だが、そのような声が上がるのか…。
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2018年09月01日

影響は最低賃金にも…?

 所得の高低に関係なく影響が出る制度がある。「最低賃金」だ。生活保護基準は最低賃金とも連動しており、双方の整合性が常に問われている。近年、最低賃金は政策によって上がる傾向にあるが、生活保護基準が下がれば今後は上がりにくくなるかもしれない。また、最低賃金は時間給のパートやアルバイトだけではなく、月給をもらっている社員にも関係する。時間給に換算して月額給与に適用されるので、給与も上がりにくくなる。決して、生活保護世帯だけの問題ではない。
 2012年以降、緩やかに景気は回復していると言われているのだが、実感がない人のほうが多いのではないか。実際、生活保護基準以下またはそれよりも少し上という低所得層の増加傾向は変わらず、さらに拡大を続けている。15年の1年の所得が200万円以下の世帯は19.6%、300万円以下の世帯は33.3%で、平均所得(545万8000円)を下回る世帯が全世帯の60%以上にのぼった(厚生労働省「平成28年度 国民生活基礎調査」より)。シングルマザーや高齢者世帯、非正規雇用の若者など、働いていても収入が生活保護レベルを超えない世帯は年々増加しており、かなり厚い低所得者層が形成されている。
 12年に起きた生活保護バッシングを覚えているだろうか。
 長引く不況から、生活保護費より低い生活費で暮らしている人たちが多く存在することが明るみに出てしまった。政府はこれを改善することはせずに、逆にこれまでにない大幅な生活保護費の削減を実施し、15年までに生活扶助費が最大で10%削減された。
 それまで、一般世帯や収入下位20%の一般世帯、生活保護世帯のそれぞれの消費額と比較して決められていた生活扶助費の額の算定方法を、下位10%の低所得者層との比較に変更したのがこのときなのだ。これによって出した数字を根拠に10%の削減が決められたのである。当時も、生活保護基準以下の低所得世帯の消費額と比較することの意味が大きく問われ、これを違法として国を訴える裁判が現在でも全国各地で行われている。
 そして、さらに追い打ちをかける生活扶助費5%の引き下げなのだ。これがどのような結果をもたらすのかは明らかではないだろうか。
 生活保護基準とは、生きていく上での最低限必要な生活費の水準である。それは、「ぎりぎり死なない程度に食事が取れればいい」という意味ではないのだ。憲法25条で保障しているのは、「健康で文化的な最低限度の生活」ができる水準。誰かとたまには映画を観たり、外食したりできる暮らしである。「生活保護費は高いから下げろ。最低賃金を上げろ」という主張は矛盾しており、結果的に自分の首を絞めていくことになるのだ。
posted by GHQ/HOGO at 06:31| 埼玉 ☔| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする