2018年05月20日

低所得化に合わせて基準を下げてよいのか?

 生活保護の8種類の扶助のうち、主たる生活費である生活扶助の基準の見直しを厚生労働省が昨年12月に決めた。2018年10月から20年10月にかけ、3段階に分けて実施される。
 見直しの影響は、世帯の人数、年齢構成、居住地域によって異なり、今より基準額が増える世帯もあるが、減る世帯のほうがはるかに多く、最大では5%下がる。生活扶助の総額で見ると、1.8%のマイナス。13年8月から15年4月にかけて平均7.3%(最大10%)の大幅引き下げが行われたのに続くダウンになる。
 なぜ、そうしたのか。簡単に言うと、低所得層(消費支出が最下位10%の世帯)の消費水準に合わせて基準を見直した結果だ。国民の生活水準が全般に低下してきた中で、貧しい層の動向に合わせるというやり方で、「健康で文化的な最低限度の生活」は守られるのか。
 見直しによって、生活扶助の基準額が具体的にどう変わるのか。大まかに見ると、大都市部、高齢単身者、子どもの多い世帯はもっぱらマイナスになり、地方の郡部、夫婦だけの世帯、子供1人の世帯ではプラスの傾向である。それで全体としてダウンするのは、生活保護世帯は大都市圏に多く、しかも高齢単身者が多いからである。厚労省の推計によると、生活扶助額が上がる世帯は26%、変わらない世帯が8%、下がる世帯が67%となっている。
 全体の金額で影響を見ると、3段階の見直しが完了した段階で、生活扶助の本体部分の国負担額は年間でマイナス180億円、子供のいる世帯への加算額の見直しがプラス20億円。差し引きマイナス160億円となっている。18年度予算の概算要求で生活扶助の国負担見込み額は9056億円なので、それと比べると1.8%のダウン。生活保護費の国の負担割合は4分の3なので、実際の生活扶助費の総額は年間213億円のマイナスになる。それだけでなく、基準が下がると保護対象となる世帯が減るので、削減額はさらに大きくなる。
 生活保護の基準は厚労省が告示で定めている。どういう方式で生活扶助の基準を改定するか、ルールは決まっていないのだ。今回、現行の基準が適切かどうかの検証作業は、16年5月から社会保障審議会生活保護基準部会で行われたが、多くの委員から「新たな検証方式を考えるべきだ」といった意見が出た。しかし、事務局の厚労省保護課が主導して「水準均衡方式」で検証作業を進めた。
 水準均衡方式でも、どの層の消費実態を参照するかはいくつかの選択肢があるのだが、用いたのは最下位10%の層だ。総務省の全国消費実態調査のデータ(14年調査分)で、消費支出が最も低い10%の世帯(うち生活保護と見られる世帯は除外)の消費支出の状況を見て、それを生活扶助の基準と比べたのである。その検証結果をあてはめて生活扶助の基準を修正すると、最大13.7%の減額になる世帯が出るところだが、厚労省は影響の大きさを考えて、下げ幅にキャップをかぶせ、最大5%に抑えることにして公表した。
 ただし、 基準部会の報告書 は、検証結果を1つの試算として示しただけで、基準をどうするべきだという意見は述べていない。厚労省による最終的な基準改定の内容も、基準部会には諮られていない。つまり今回の見直しは、基準部会の委員になった専門家の合意を経た内容ではなく、あくまでも厚労省による政策決定なのだ。
 最下位10%の層に合わせる水準均衡方式には、大きな問題がある。最も貧しい層の中には、最低限度を下回る暮らしの世帯が相当含まれるからなのだ。生活保護の要件を収入・資産の両面で満たす世帯のうち、実際に保護を利用している割合(捕捉率)は2〜3割と見られる。恥の意識、福祉事務所の冷たい対応、保護を受けるために自動車を手放すと暮らせないといった事情で、厳しい生活に耐えている貧困層。その低すぎる生活水準に生活保護を合わせることになりかねない。
 そして、国民の生活水準の低下傾向が続く中で、最も貧しい層との比較を続けると、保護基準が際限なく下がり続けてしまう。「健康で文化的な最低限度の生活」に必要と考えられる費目を積み上げるマーケットバスケット方式を改めて用いるなど、何らかの形で絶対的なラインを設定するべきではないだろうか。この問題は、基準部会の報告書も強調している。
 生活保護の基準の改定は、政府が国民に最低保障する生活水準(ナショナルミニマム)が変わるということです。いま安定した暮らしの人でも、病気、けが、死別、失業など何らかの事情で生活に困る可能性があります。そのとき基準額が下がっていると、政府が確保してくれる生活水準が低くなるわけです。具体的には、三つの面で影響が生じます。
  第1に、現に生活保護を利用している世帯が受け取る額が減る。
  第2に、生活保護を利用できるラインが下がる。収入が基準額より少し低い水準の世帯は、これまでなら利用できた保護を受けられなくなる。
  第3に、保護基準の引き下げは、他の制度にも影響する。
 住民税の非課税限度額、就学援助の基準、最低賃金、大学の授業料・入学金の減免などは保護基準を参照して決められる。介護保険料の区分、介護施設入所中の食費・居住費も保護基準に連動する部分がある。また、住民税の非課税限度額が下がると、医療保険の高額療養費制度、入院中の食費、障害者福祉、障害者や難病患者の医療費、保育料など、数多くの制度の負担区分に影響が及び、これまでより負担の増える世帯が出てくる。保護を受けていない人々にとっても他人事ではないのだ。

posted by GHQ/HOGO at 07:25| 埼玉 ☔| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする