研究者によると、1990年代初めの不動産と株式市場のバブル崩壊以降、約20年間、日本人の収入が横ばいまたは減少し続けたため、貧困率は倍に膨れ上がった。一部の専門家やソーシャルワーカーは、日本において貧困が発見されにくいのは、貧困者が中産階級のイメージを守ろうとするからだと指摘する。軽蔑されるのを恐れ、自分の苦しい境遇を認めたがらない日本人は少なくないという。
福祉政策が専門の岩田正美日本女子大学教授は「繁栄した社会において、貧困は必ずしも衣服がぼろぼろで粗末な家に住んでいることを意味しない」とした上で、「彼らは家、携帯電話、車を持っているが、他の人々から切り離されている」と説明する。
経済学者は、近年進められてきた労働市場に対する規制緩和や他国に端を発する低賃金競争の影響により、日本において低賃金労働者が急激に増加したと指摘する。さらに、こうした労働は基本的に社会保障制度がカバーする範囲の外に置かれている。
さらに多方面から注目すべきなのは、統計データが示すように、7分の1の子供が貧困の中で生活している点だ。ソーシャルワーカーは「貧困家庭の子供がさまざまな塾に通えないままでいるのは、これらの費用を支払えないからだ。このため、こうした子供たちは競争の激しい日本の教育システムへの適応が困難であるほか、永久に低賃金労働を続ける悪循環に陥ることになる」と危惧を示す。あるNPOの工藤俊彦理事は「日本において容易に根絶できない下層階級が現れる可能性が高い」と語る。
51歳のシングルマザー・佐藤聡美さんは、まだ17歳の娘を育てるために2つの仕事を掛け持ちしている。このように働いても、佐藤さんの年収は約150万円にも届かず、貧困ライン以下の生活水準にある。
「貧困という言葉は使いたくないけど、貧しいのは確か」と佐藤さんは漏らす。2つの仕事を掛け持ちしているが、医療費を払うことができないので病院にかかっていない。年々持病が増え、慢性的に関節炎に苦しんでいるほか、めまいに襲われることもよくある。昨年、娘の高校進学に際し、制服購入に約6万円が必要になったが、こうした極当たり前の出費のために、佐藤さんは食事を1日2回に減らさなければならなかったという。