少し前まで夢ある子育て世代だったはずの中年の間に、フリーターが激増している。滅入る話は、そこに止まらない。彼らが老後を迎えたとき、一斉に「老後破産」状態に陥って、生活保護費が今の何倍にも膨らみかねないという。日本を覆すような話なのだ。
フリー・アルバイターを縮めた造語であるフリーターとは本来、少年や青年、いずれにせよ若者を対象とした言葉だったはずだが、最近、“中年”と呼ばれる世代のフリーターが激増している。
彼らの収入は月15万から20万円程度と、生活保護受給者とあまり変わらず、家賃と光熱費を支払ってしまえば、やっと食べていける程度しか残らない。もちろん、年金を納める余裕などないし、それどころか、健康保険料すら支払えない。
そんな人たちが増えているのはなぜなのか。そのことは近い将来、想像を上回る「老後破産」社会が到来することを暗示しているのではないだろうか。中年フリーター高田さんの場合はこうだ。
「不安は、ないんです。ただ……」
と言葉を濁したのは、45歳になる高田淳史さん(仮名)だ。ある離島出身の高田さんは、高校卒業と同時に神戸にある石油関連企業に就職した。まだ、バブル真っ盛りの時代である。だが、それから数年して、
「阪神大震災があって、会社の先行きがあやしくなったんです。何もかもが壊れてしまったあの地震のあとは、ぼくの価値観も大きく変わってしまって」
勤め先の将来に不安をおぼえて退職し、東京に出てきたという高田さん。いったんは、ある会社に正社員として入社したものの、すぐに退職してしまった。それ以来、ずっとフリーターである。いろんな仕事をしてきたが、ここ5年ほどは、百貨店などの催事で使う冷蔵庫などの什器をリースする会社で働いている。といっても、日雇いである。おもな仕事内容は、冷蔵庫などの設営と撤去だという。
「早くて2週間前に、急なときは当日なんてこともありますが、会社から〈○月○日に○○百貨店○○店へ行けますか〉といった内容のメールが届くんです。自分の体力と相談して、1日にどれだけの仕事を掛け持ちできるか考えてから返信します。賃金は1現場につき4500円です」
平均すれば、1ヵ月に30ヵ所ほどの現場を回る。4500円の“基本給”は1現場につき5時間までの金額で、労働時間がそれを超過すれば1時間1000円の残業代が支払われる。こうした合計で、手取りの月収は多いときで15万円ほどになるという。
「まず家賃を払います。次に光熱費。残りのお金でなんとか生活するという感じですかね」
高田さんの自宅は東京都内にある。1人暮らしだから、なんとかギリギリの生活はできると語るが、
「蓄えはありませんし、年金も払っていません。病気になったりケガをしたりすれば、立ち行かなくなるのはわかっています」
仕事は軽くない。生活にもまったく余裕がない。しかし、意外にも会社からは、それなりに“いい扱い”も受けているという。
「設営場所の周囲には高価なモノも置かれたりで、それなりに緊張感がある現場なので、何も考えないで労働できる、というわけではないんです。それに、慣れる前に辞めてしまう人も多いだけに、長続きすると、会社も優先的に仕事を回してくれたり、仕事内容が比較的ラクなところを斡旋してくれたりするんです」
中年フリーター馬場さんの場合はこうだ。
馬場弘明さん(仮名)は、現在46歳。すでに同じ仕事を10年以上つづけている“熟練”の中年フリーターである。九州出身で、大学を卒業すると、いったんはコンピューター関連企業にSEとして就職したそうだが、
「企業体質が合わなくて、研修期間中にやめてしまいました。以来、フリーター暮らしで、もう15年間、空調設備のメンテナンスをやっています」
メンテナンスと一口に言っても、その内容は細分化されており、およそ100項目にものぼるという。仕事に赴くのは都内が中心だが、ときに地方への出張もあるそうだ。
「空調設備が置かれているのは、狭い場所がほとんどなので、無理な姿勢がつづくのがつらいですね。時間帯も、相手先の都合などによって早朝から深夜まで不規則なので、体力的には最近、かなりきつくなってきました。そのうえ老眼がすすんできたので、細かい作業の時は、目がつらくて本当に困ります。近視なのでコンタクトレンズを使っているのですが、老眼になると、近くを見るのが本当に難しくなるんです」
そう言って笑う馬場さんの表情からは、苦悩が透けて見える。それでも、15年間、この仕事一筋に磨いてきた腕をもってすれば、それなりの見返りは得られるのではないだろうか。
「毎月、1ヵ月ほど前に提示される予定表に、働ける日を書き込みます。1現場あたり1万円の日雇いです。夜勤の時は1万2000円になりますが、体力的にきついので、あまりたくさんの仕事を詰めこむことはできません。毎月、だいたい12から13カ所の現場に出ていて、それでなんとか生活できる感じですかね」
むろん、生活できると言っても、ギリギリである。
「年金も払ってないし、生活に余裕はありません。好きな音楽活動をつづけるためには、自由な働き方はいいんですが、ときどき、1人きりになると、いろいろ考えますね。友人からはよく“孤独死するよ”と言われるんです」
それでも馬場さんに、いまの生活を変えようという気ちはない。
「実家の両親は、僕に結婚してほしいと思っているみたいなんですが、いまは交際している女性もいないし、結婚なんてまったく考えていません。この仕事をやめて、ほかになにかがあるという気もしませんね」
そこまで語って、馬場さんはぽろっと漏らした。
「“日本は厳しいな”とは思います」
たしかに、日本の状況は日に日に厳しくなっているが、そのことは、中年フリーターの増加と軌を一にしていると言っていい。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、35歳から54歳までの非正規雇用者(女性は既婚者を除く)の数は今年、273万人を超えた。これは大阪市の人口を若干上回る数字である。前出の小林氏はこう指摘する。
「デフレがつづいているかぎりは、彼ら中年フリーターも、たとえギリギリであっても、衣食住をまかなって生活を維持することができます。しかし、一度物価が上昇すれば、たちまち立ち行かなくなります。それに、いまは働いているからなんとか生活できていても、老後になればすぐに限界が訪れます。たとえば、健康保険料を払っていないから、体調を崩してもなかなか病院に行かない。病状が悪化してようやく医者にかかったときには、自己負担の医療費が大きくのしかかってくる。年金も払っていないから受給できません」
その結果、どうなるのかと言えば、
「将来、生活保護などの社会保障費が、爆発的に増えることになってしまうと思います」
posted by GHQ/HOGO at 07:05| 埼玉 ☔|
Comment(0)
|
日記
|

|