2017年07月08日

偏見を土壌として繰り返されるアピール

 稼働年齢層の生活保護受給者に対する偏見がどのように形成されたのかはともかく、偏見を土壌として、数多くの主張が行われている。その多くは、根拠が不明瞭である。まず、生活保護費の不正受給を例として、どのように根拠が不明瞭であるかを検討したい。
 「生活保護費の不正受給が増加した」というメディア報道に注意深く接してみると、「その自治体で摘発体制を強化した」という背景が示されていたりする。であれば、不正受給そのものが増加しているわけではないので、「摘発数が増えている」と報道すべきである。年度末に増加する道路工事が、道路工事に対するニーズの年間変化そのものを反映しているわけではないのと同様である。
 筆者はまだ、不正受給そのものの増加を示すデータを目にしていない。本当に増加しているのであれば、噂話レベルで聞こえてくる不正受給事例も増加しそうなものであるが、「現実的な裏付けのありそうな不正受給の噂が増えた」ということもない。
 さらに不可解なのは、「(悪質な)不正受給の増加」という報道に、不正受給された生活保護費の総額と延べ件数しか示されていないことである。たとえば「○市で昨年1年間に不正受給された生活保護費の総額は2500万円、延べ摘発件数50件」という場合、1件あたりの金額の平均は50万円、中央値も50万円となる。
 しかし、この中には「意図的な資産隠しと生活保護費不正受給で、家を建てて外車を買った」レベルの悪質な不正も、「生活保護世帯の子どもが高校生になってアルバイトを始めたが、収入を福祉事務所に申告する義務を知らず、多忙なケースワーカーも注意することを忘れていた」という事例も、同じように「1件」としてカウントされている。
 もしかすると、「50件で2500万円」の不正受給の構成は、
 ・1000 万円 1件(資産隠し)
 ・100 万円 10件(就労収入隠し)
 ・12.8 万円 39件(高校生のアルバイト代申告漏れ)
 といったものかもしれない。このような分布であるとすれば、1件あたりの金額の平均は50万円のままだが、中央値は12.8万円となる。ごく一部の、刑事告発されるほど悪質な事例では「○市で総額×千万円」のようにメディア報道が行われるため、個別の事例で不正受給された金額を把握することが可能である。それ以外は推察するしかないのだが、どのような分布になっているかによって、受ける印象が全く異なるのではないだろうか。
 同様の問題は生活保護世帯のジェネリック医薬品(後発医薬品)利用促進に関しても見受けられる。「生活保護世帯の医療費は無料なので、生活保護受給者は懐を痛めずに先発医薬品を利用できる。このため、生活保護世帯のジェネリック医薬品利用が進まない」と理解されていることが多い。この根拠とされるのは「2010年生活保護世帯のジェネリック医薬品利用比率は7.0%であった。一般世帯では7.9%であった」といったデータである。
 この0.9%の差は「生活保護世帯は、無料だからといって先発医薬品を利用する」で説明できるものであろうか。 背景として、「生活保護受給者の多くを占める高齢者・障害者・傷病者が、治癒困難な病気を抱えており、まだジェネリックが販売されていない医薬品を利用する場面が多い」など、多様な仮説を検討する必要があるのではないだろうか。
 さらにいうと、「ジェネリック医薬品の利用を促進すれば、医療費が削減できる」も、どの程度事実であるか明確ではない。ジェネリック医薬品は、先発医薬品より安価であることは確かである。しかし、同等の主成分を含む多数のジェネリック医薬品の取り扱い体制を整備することは、調剤薬局にとって大きな負担である。このため、調剤薬局に対しては、ジェネリック医薬品を取り扱うことに関する報奨的な加算が用意されている。この加算を考慮すると、「ジェネリック医薬品だから安価」とも言い切れない。
 もしかすると「生活保護受給者は自分の懐を痛めないからジェネリック医薬品を使わない」という仮説に基づいてジェネリック医薬品の利用を強制することの結末は「生活保護受給者の80%がジェネリック医薬品を利用するようになり、加算を考慮すると、これまで以上の医療扶助支出を強いられた」であるかもしれない。
 とはいえ、各自治体や各省庁が、より詳細・より実態把握に役立つデータを進んで公開する近未来は、期待できそうにもない。可能な対策は、生活保護制度・生活保護受給者に対する報道やアピールが行われる時、なるべく相手の意図を正確に読み取る努力をし、それらが自分たちのどのような偏見を前提として行われているか考え続けること程度であろう。
posted by GHQ/HOGO at 07:29| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする